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6-愛してほしいの(3)
遊馬さんと仲良く過ごした休日が終わって、平日がやって来た。
「おはようございます」
「おはよう」
ちょうど目が合った高山さんに挨拶をする。あれ、遊馬さんが席にいる。
遊馬さんはだいたい出勤が早くて、でも誰かに会ってでもいるのか、いつも始業まで姿が見えないんだけど。今日は違うみたい。
PCを立ち上げながら飲み物を飲んでいたら、遊馬さんが立ち上がって廊下に出て行った。
もちろん俺はそれをじっと目で追ってた。
今日の遊馬さんの服装は、グレーのスーツに白のワイシャツ、赤地に柄が入ったネクタイだ。もちろん最高に似合ってる。
それから一時間くらい仕事をして、ふと高山さんに聞かれた。
「この休みは白百合さんと会ってたの?」
「家にお邪魔してました。もう白百合さんが可愛くて可愛くて可愛くて、辛いです」
思わず俺は両手で顔をおさえて机に突っ伏した。
「うまくいってるみたいで良かった。……ところでさ」
目をキラキラさせた高山さんが身を乗り出してきて、声を抑えて言った。
「どこまでいってるの? そろそろ……したの?」
「う」
俺は突っ伏したまま固まった。
「付き合い始めてもう二か月? くらい経ったっけ。ねえ、どうなの?」
そう。遊馬さんと幽霊デートをしてから、二か月とちょっと経った。
経っちゃったんだよ。あっという間だよね。
最初の一か月は、『お試し』のやつ。それでキスまでして、その後。そのあとぉ……。
「してません」
「え?」
「キスしかしてません。あれから進捗ありません」
「そうなの? あれ、偏見だったらごめん、もっと展開早いかと思った」
俺もそう思ってました。実際俺の過去のお付き合い歴を振り返ると、一か月くらい、いやもっとずっと早かったです。
「白百合さんが予想以上に恥ずかしがりの照れ屋さんで、そのうえ俺が惚れすぎてるんです」
「恥ずかしがりで照れ屋さん……白田くん、よくそれ言ってるけど、なかなかイメージできないんだよねぇ」
そう言う高山さんの後ろを遊馬さんが通った。戻ってきたんだ。
「? どうしたの白田くん」
表情が固まった俺を不審に思った高山さんが首を傾げる。
でも、それに答えてる余裕は俺にはなかった。
遊馬さんがしてるネクタイ、さっき出ていった時と結び位置が変わってる。はっきりした柄だったから、なんとなく覚えてた。
つまり、どこかでネクタイを緩めるか、……解いたんだ。
遊馬さんが出て行ってから戻ってくるまで、一時間くらい経ってたかな。
遊馬さんはその間に、誰かと。
その後はずっと、遊馬さんのネクタイの結び目を監視してた。
器が小さいって笑われるかもしれない。だって、枕はやめないってことは始めから言われてたし、俺もそれを良しとした。
だけどさ。やっぱり不満を感じちゃうんだ。
だって遊馬さん、俺とは性的なことほとんどできないんだ。胸触っただけで照れちゃって、真っ赤になって怒るんだよ? でも、俺の知らない誰かとは、えっちなことしてるわけだ。ネクタイを解くほどの、何事かを。
寂しいよぉ遊馬さん!! 俺もしたいよ! 俺も遊馬さんとラブラブえっちしたいよ!
もちろん、枕が浮気だなんてことはもう思ってない。
だって、俺が触るとあんなに恥ずかしがるのに、今は顔色を変えた形跡もないんだもん。遊馬さんの中では、完全に別物なんだって解るよ。
よし、決めた。
今週末は、遊馬さんと、えっちする。
遊馬さんが嫌がったらやめるけど、赤くなって恥ずかしがるだけなら、多少強引でも、する。
覚悟してね遊馬さん。徹底的に気持ちよくしちゃうから。ね。うふふ。
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