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6-愛してほしいの(9)
インターホンでのやり取りは予想通りだった。何事もなくパス。
そのままエレベーターに乗って、六階に上がって、遊馬さんちは、左に振り返って通路を進んだ先にある。
どうしよう、着いちゃった。
遊馬さんと顔を合わせた時の第一声について、答え出てないよ。まだ思いついてないよ。
玄関ドアを引いたら、開いた。
どどどどど、どうしよう。どうしたいんだ俺は?
情熱の迸るままに、抱きついてちゅっちゅしたいのか、今は冷静に、遅くなったことについてなんかコメントでもしておくのか。
遊馬さんの顔を見てから決める?
いや、もう遊馬さん目の前にいるけど。玄関まで迎えに来てくれてるよ! どうする俺「お疲れさま」
煩悩まみれの俺とは違って、遊馬さんは落ち着いてた。少なくとも今は。
にこっと優しく温かい笑顔で、下心丸出しの俺を迎え入れてくれた。抱きついてちゅっちゅ、ってなんだ、アホか。このエロ単細胞め。
遊馬さんはゆったりした服に着替えてて、すごく良い。とても良い。何が良いって、トップスがVネックだから、鎖骨が綺麗に見える。最高の眺望。
「しろた、バッグを預かるから、手を洗っておいで」
ああ、アホ。アホエロゾウリムシ。
今すぐ人生やり直して、気の利いた台詞の一つも言えるようになってこい。鎖骨に見惚れて結局何も言ってないじゃないか。
たぶん大学生活を真面目にやれば、エロの方は改善するから。アホは無理だ。治らない。
しかしあいにくと人生のやり直しかたを知らない俺は、二十八歳のアホエロゾウリムシのまま、脳ミソピンク色にして遊馬さんにバッグを渡した。
「その、夕飯も簡単だけど、用意してみた」
遊馬さんがうつむき加減で頬を染めて、そんなことを言ってくれた。
え、なに。遊馬さん何かしてくれたの。ていうか何、この初々しさ。新妻?
「がっかりさせたら申し訳ないから、先に言っておく。……手作りじゃなくて、レトルトを温めただけだ。雰囲気ぶち壊しで、すまない」
いえ、そんなこと!
遊馬さんが自ら用意してくださったっていうだけで、俺は幸せです。
しかも、ここで、遊馬さんのおうちで食事ってことは、ここからずっと、遊馬さんと二人きりってことですよね。ああどうしよう、やっぱりちゅっちゅしたい。したいよぅ。
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