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6-愛してほしいの(10)

「ハンバーグ美味しいです」 キノコのソテーとハンバーグをもぐもぐしながら、俺は幸福の中、なんとか言葉を発した。 幸せすぎて、気をつけないと自己完結しちゃうんだよ。無言で満足しちゃうんだよ。涙? もちろん出てるよ。涙ふきながら食べてるよ。当たり前でしょ、こんな幸せな食事なんだから。 「しろたは、その、優しすぎる。レトルトなんだから、そんなににこにこしなくていいんだぞ。涙まで出てるし」 赤くなりながら遊馬さんが言う。 「でも、美味しいんです。ハンバーグ好きだし、ましてや遊馬さんが用意してくれたハンバーグだし」 遊馬さんは更に赤くなる。 「本当は、レトルトじゃなくて、一から料理しようと思ってたんだ」 おや、遊馬さんがまた俺を幸せ責めにしようとしている。 「電車の中で献立を考えていたんだが、僕にもできそうなのが、炒飯とレバニラ炒めしか思いつかなくて」 遊馬さんが俺の視線から逃げる。 「しろたが僕のところに泊まりに来てくれるのに、ニラはないだろ? ……その、臭い的に。でもどう頑張っても作れるのはそれしか思いつかなくて。スーパーでも悩んだ挙げ句、レトルトのハンバーグにした」 遊馬さんなりの気遣い。ニラ。臭いがするからだって。なんなのもう、この可愛いひとは。 ニラしか思いつかなかったって、赤くなってうつむいて。 こんな可愛いひとがアホエロ単細胞な俺の恋人でいいの? 何かの間違いじゃないの。間違いだったとしても、絶対手放さないけど。 「付け合わせのブロッコリーとニンジンは、遊馬さんが作ってくれたんでしょ? サラダも美味しいです」 俺がそう言ったら、遊馬さんは眩しそうに目を細めた。続けて照れて、横を向く。 「確かにそれは僕が作ったが、切って、茹でたりしただけだぞ」 どうしても我慢できなくて、手をのばして、遊馬さんがつんと尖らせた唇の先にそっと指を触れた。だって、そうしたら絶対に遊馬さんは真っ赤になって慌ててくれるから。 「なっ、何するんだしろた! びっくりするだろ!」 「うふふ、すみません。遊馬さんがお澄まししてると、ついちょっかい出したくなっちゃうんです」 そう言ったら遊馬さんに赤い顔でちょっと睨まれた。 「俺が言いたかったのは、ちょっとしたことでも、遊馬さんが手を掛けてくれたものは、愛しくて、美味しい、ってことです」 「う、ぅん……。しろた、しろたは僕に対して評価が甘すぎるぞ」 「そうですか? 俺に言わせると、遊馬さんは誉められなさすぎなんですよ。もっと誉め讃えられていいと思います」 「大げさだ」 遊馬さんは赤い顔でそう言って、照れ隠しに少し残っていたグラスのワインを飲み干した。

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