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6-灰谷九次のよた話

ご無沙汰しておりました、灰谷九次ですー。 前回手が離せなくてさ! ごめんね! 代わりをきのぴーにお願いしたんだけど、どうだった? きのぴー、ちゃんとノロケてた? しろやんの魅力について存分に語ってねって言っておいたんだけどさ。 なんでしろたの事なんか話さなきゃならないんだっ、て赤くなってたから、心配だったんだよね。 さて、お昼だよ。 「あ、きのぴー。久しぶり」 「お久しぶりです」 食堂に行ったらきのぴーがいた。入口のメニューを見てた。 「どうしたの。お昼悩んでるの」 難しい顔をして、ケースを見つめてる。 「あー、今日は辛いメニューないんだね。カレーでいいじゃん」 「もう三日連続カレーなんです。さすがの私も、飽きてしまって」 「辛くないの、挑戦してみたら?」 うわ、何言ってんだコイツって顔で見られた。 「せめて昼食くらいは楽しみたいじゃないですか」 「えー。あ、でも、しろやんと一緒に肉じゃが作ってなかった? あれは辛くしてないでしょ」 「あれはっ、あれはそのっ、し、しろたさんと一緒だったから……いいえ何でもないですっ。肉じゃがなんか知りませんっ」 あらー。もうちょっとで素直に惚気る新しいきのぴーが爆誕しそうだったのに。残念。 「今日はうどんにしますっ。さよなら」 あ、きのぴーが行っちゃう。 「待って待って、俺も決まったから。たまには一緒に食べようよー」 実はしろやんについて、確認したいことがあるんだよね。アレ、きのぴーに見せなきゃ。 カウンターに並んでご飯買って、ちょっとだけ回りから離れた端の席についた。 きのぴーが遅れてやってくる。調味料コーナーで一騒動起こすから、いつもちょっと遅れるきのぴー。さて。両手を合わせて、いただきます。 俺はピラフのセットにしてみた。鶏肉のソテーが付いてたから。俺、鶏肉には目がないんだよね。一番好きなのはかしわ天。 ん? よく覚えてるね。そうだよ、メンチカツも好きだよ。ていうか肉全般好き。アイラヴミート。でも一番好きなのはかしわ天。 早くも向かいから、ちゅるちゅるって勢いよくうどんをすすってる音がしてる。 うん、これは本題を先にしないとだめだな。きのぴー食べ終わっちゃう。 とりあえずピラフを一口食べてから、スマホを取り出した。画像がね、送られてきたんだよ。しろやんから。 「ねえきのぴー、これ見て欲しいんだけど」 「ん? んぐっ」 見た途端にきのぴーが喉をつまらせた。 「これ、昨日しろやんが送ってきたんだよ。『事後!』って一言だけ添えてさ」 「……何やってるんだしろたは! 馬鹿か!」 「えー。可愛いじゃん。きのぴーも可愛いって思ったから、『事後』なんでしょ?」 きのぴーは真っ赤になってうつむいちゃった。さすがに食べる手も止まったよ。 「本当にさー、同い年とは思えない可愛さだよね。ウサギの真似なんかしちゃってさ。天使の羽もついてるし。要素もりもりなのにくどくないのがさ、さすがって言うかさ」 こっちに背中を向けたままちょっと振り向いたしろやんが、両手を頭に添えてウサギの耳にしてる。 くいっと誘うように上げた小さなお尻は、淡い水色のショートパンツに包まれてる。ふわふわしてて手触り良さそう。ぴょこん、ってちっちゃいしっぽもついてる。可愛い。 ぷりぷりお尻の上にはなんと天使の羽。これもふわもこ。 お馴染み天使の輪は、たぶん手で上手いこと押さえられてて、今はない。 だからしろやんは、羽の生えたいたずら子ウサギちゃん。これはもう、見る人が見たら値段つくね。表情も合わせて完成してるもん。さすがしろやんだよ。アラサーになっても魅力は衰えてないよ。むしろ増してるよ。 「……しっぽ? 僕、しっぽなんて着けさせてないぞ。なんだ? 自分で作ったのか?」 きのぴーが思いついたように生き返った。スマホを渡すと、しげしげと見て……赤面した。 「この画像は、しろたが撮って、それで灰谷に送っただけか? 他の人間にも見せたのか?」 「しろやんが大学の仲間のグループにも送ってたよ。もちろん高評価だよ。『さすがプレイボーイ!』って」 そしたらいきなりきのぴーが、食べかけのうどんの丼に顔を突っ込もうとした。 「きっ、きのぴー! 落ち着いて! 確かにそれだけおつゆがあれば溺死できるけど、丼小さいから! 頭入らないから!!」 意味わかんない! もちろん止めたけど、まだうどんつゆで溺死狙ってる。 「離せっ、手を離せっっ。僕はもう生きていけないっ」 あ、やばい、この子超顔ちっちゃい。角度によっては丼で溺死いけるかも。 「きのぴー! どうしたの! とりあえず話しよ、話!」 「話すことなんかないッ」 「あるでしょ! 言いなさい!」 「……そのしっぽは、僕のパンツだッ」 その後、ちょうど通りかかった同期にも手伝ってもらって、なんとかきのぴーのうどんつゆ自殺はやめさせた。うどんは完食後、器をさげてもらった。 怖いねー。理性のある人でも、思いつめたら何するか分かんないんだね。ねー。まさかパンツがね。 ◇ ◇ ◇ しばらくして、ようやく落ち着いたきのぴーが、ふと首を傾げた。 「プレイボーイの意味は分かるが、『さすが』ってなんだ? 何か有名なのか?」 えっ。 あっ。 「しろたは……プレイボーイなのか???」 あー……。うん。もう言っちゃお。隠しきれないって。 「あのね、しろやんはね。実は大学時代に……その、そういう遊びが大好きで、まさかの百人斬りしちゃった子なの。だからプレイボーイ」 もちろんこのあと、パンツの件について、しろやんはきのぴーから、こってり叱られました。 ま、ね。最後はしろやんが上手いこと甘えて、きのぴーとキスして落ち着いたらしいけどね。 しっぽはふたりで頑張ってモザイクかけたってさ。 おしまい。またね。

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