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7-荒波に揉まれるおしりとか(2)

さて、遊馬さんはまだちゃんと寝てるかな? そーっとそっと足音を殺して寝室に戻る。 大丈夫、すやすや寝息が聞こえる。 眉間にもシワ寄ってる。ふふ。 そうそう、話が途中だったね。『むぎゅ』で遊馬さんは一度機嫌を直してくれたんだけど、そのあと、俺が余計なこと思い出しちゃって……。 「あのぅ、遊馬さん」 「ん?」 「寝る前におしり見せてください」 「あぁ……。っなんでだ!? 嫌に決まってるだろ」 「見るだけです。遊馬さんのおしり可愛いんです」 一所懸命に説得する。 「おしりなんて人に見せるところじゃない」 「遊馬さんのおしりは例外なんです。見る価値があるんです」 力を込めてうるうるしながら説得する。 もう遊馬さんは俺の涙から目が離せなくなってる。いつ零れ落ちるかって心配してくれてる。 「そんなに言われても……」 ぽろりと出た遊馬さんの優しさに飛びつく。 「右側のおしりだけでいいんです! こうやって四つん這いになって、右だけパンツをこう下ろしてくれれば」 くいっとパンツをずらして、おしりを見せてみる。ね? ちょっとだけですから。 「うーん」 「十秒! 十秒でいいです。お願いします!」 「はぁ。十秒だけだぞ」 やった! 渋々だけど遊馬さんが承諾してくれた。 もぞもぞしながらベッドの上で四つん這いになって、右手をウエストにかける。 「なあ、これ本当に意味あるのか? しろたは僕のおしりを見て何が楽しいんだ? しろたのおしりの方がよっぽど可愛いぞ」 「癒されるんです。ね、遊馬さん早く」 うーん、と訝しげな声をあげながらも、遊馬さんが右手を下ろす……! 「!!」 久しぶりだねほくろさん達! 小さなほくろが斜めに二つ、夜空の星みたいに輝いてる。 「会いたかったよー!」 「は!? あと五秒だぞ」 時間がない。俺のこの気持ちを伝えるにはどうしたらいいだろう。 ああ、ほくろのことで頭いっぱいで気づかなかったけど、遊馬さんのこの格好、けしからんな。誠にけしからん。四つん這いになっておしりを片方だけ見せるとか、煽りすぎにも程があるぞ。 「三!」 よぉし届け俺の想い! ちゅっ、ちゅっ、て、ほくろさんにキスをして……。 「ん"!?」 軽く歯を立てる程度に、おしりに噛みついちゃった。痕も残らないくらい軽く、ね。 「終了!」 ああ、おしりがしまわれちゃった。 「しろたは何をしたんだ?」 怪訝そうな顔で遊馬さんが聞く。 「遊馬さんのおしりに、キスしました。あとちょっと噛んじゃった。えへ」 「なぜわざわざおしりに」 「遊馬さんの右側のおしりには、ほくろがあるんです」 遊馬さんはきょとんとした。 「ほくろ」 「あ、でも、ただのほくろじゃないですよ? 健気なほくろです」 「健気なほくろ」 この、余りに呆気にとられると俺が言った言葉を繰り返しちゃう癖、遊馬さんの弱点突いたみたいで好き。 「遊馬さんのおしりは完璧に綺麗なんですけど、二つ点々ってあって、ほくろくっついちゃった、みたいな感じでそこだけ隙があって、良いんです」 「……僕はそんなの知らないぞ」 ぼそっと遊馬さんが呟く。 「あ、そうですか? 遊馬さんは誰かに聞いて知ってるかと思った」 もしかして、俺だけが気付いてるチャームポイントだったりして? 嬉しいな。 「見たい」 「写真とりましょうか?」 「ば、馬鹿、おしりの、その、写真なんか見られるかっ」 赤くなった遊馬さんが毛布をかぶって俺に背中を向ける。 恥ずかしくなっちゃいましたね、って思って毛布の中を覗き込んだら、なんとこの一瞬で遊馬さんは寝ちゃってた。 もう、なんなのこのひと。だいすき。 完璧じゃないのに、これ以上ないくらいに完璧なの。 そっと不満そうなほっぺに触って、静かに毛布を閉じた。

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