100 / 120
7-荒波に揉まれるおしりとか(4)
「しろた、支度はできたか? そろそろ出掛けたいぞ」
「はい! 準備できました!」
持ち物、服装OK!
髪、OK!
遊馬さんと手繋ぎ、OK!
「行きましょう遊馬さん!」
「うん。手は離して行こうな」
ああっ! せっかく遊馬さんの隙をついて手を繋いだのに!
離されちゃった。
「休みならともかく、平日に二人ともスーツで手を繋ぐのは、さすがに無しだろ」
「そんなことないです。仲が良いんだなって思われるだけです」
「うーん。だめだ。行くぞ」
はーあ。次の休みまでおあずけだねー。うん。
寂しい。
世のサラリーマンカップルはどうしてるわけ?
同棲してる人だっているでしょ?
一緒に出社しないの? 平日はあっさり過ごすの?
そんな五日間も触れ合えないなんて寂しくないの?
あ、そうか、同棲してるなら、家で仲良くできるもんね。平気か。
えー、じゃあなに、寂しいのは俺だけ?
いやいや、社内で付き合ってるけど同棲はしてないカップルなんて、星の数ほどいるでしょ。
前日どっちかの家に泊まって、直接出勤する、俺らみたいなカップルいるでしょ。
どうしてるわけ! ねえ!
……。
うん、まあ、分かってるんだ。遊馬さんの考え方が普通なんだよね。
ずっとはべたべたしない。うまいことオンオフを切り替えられればいいんだよね。
そんなことをもやもや考えながら遊馬さんの隣を歩いて、駅に着いちゃった。
「人多いですね」
「うーん。僕が乗ってる時間は、こんなに混まないんだけどな。今日はちょっと遅いから、混んでるところに当たっちゃったみたいだな」
そんなに待つことなく電車が来て、遊馬さんと一緒に乗り込んだ。
予想はしてたけど、乗ったとたん、ぐいぐい押されて遊馬さんと離れちゃった。車両の端の方に押し込まれて、身動きも取れないよ。
遊馬さーん、どこ? さすがにこんなに離れなくてもいいでしょ?
キョロキョロしてると、俺の左後ろにいるのを見つけた。
なんでこんな混んでる電車に乗っちゃったのー!
いつもはこんなに混まないんでしょ?
……は! まさか! まさかとは思うけど、朝から一戦交えてたから、遅くなっちゃったのか!
えー! なんだよー! 俺のせい?
ううん。うまくいかないね。あちらを立てればこちらが立たずってやつだ。
むぅ。むくれているうちに、俺たちを乗せた電車は走り出した。
たたん、たたんっ。
たたん、たたんっ。
前に立ってるおじさんの背中に顔を突っ込んでるから、息が苦しい。
おじさんごめんなさい、ちょっと息継ぎします。
もぞもぞっと動いたら、少し余裕ができた。
もう、遊馬さんは大丈夫なのかなぁ。
頭だけ振り向いて、遊馬さんを見た。
は? ……は!?
何あれ、どういうこと!
誰か! 誰か説明して! 責任者呼んで!!
ともだちにシェアしよう!