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7-荒波に揉まれるおしりとか(4)

「しろた、支度はできたか? そろそろ出掛けたいぞ」 「はい! 準備できました!」 持ち物、服装OK! 髪、OK! 遊馬さんと手繋ぎ、OK! 「行きましょう遊馬さん!」 「うん。手は離して行こうな」 ああっ! せっかく遊馬さんの隙をついて手を繋いだのに! 離されちゃった。 「休みならともかく、平日に二人ともスーツで手を繋ぐのは、さすがに無しだろ」 「そんなことないです。仲が良いんだなって思われるだけです」 「うーん。だめだ。行くぞ」 はーあ。次の休みまでおあずけだねー。うん。 寂しい。 世のサラリーマンカップルはどうしてるわけ? 同棲してる人だっているでしょ? 一緒に出社しないの? 平日はあっさり過ごすの? そんな五日間も触れ合えないなんて寂しくないの? あ、そうか、同棲してるなら、家で仲良くできるもんね。平気か。 えー、じゃあなに、寂しいのは俺だけ? いやいや、社内で付き合ってるけど同棲はしてないカップルなんて、星の数ほどいるでしょ。 前日どっちかの家に泊まって、直接出勤する、俺らみたいなカップルいるでしょ。 どうしてるわけ! ねえ! ……。 うん、まあ、分かってるんだ。遊馬さんの考え方が普通なんだよね。 ずっとはべたべたしない。うまいことオンオフを切り替えられればいいんだよね。 そんなことをもやもや考えながら遊馬さんの隣を歩いて、駅に着いちゃった。 「人多いですね」 「うーん。僕が乗ってる時間は、こんなに混まないんだけどな。今日はちょっと遅いから、混んでるところに当たっちゃったみたいだな」 そんなに待つことなく電車が来て、遊馬さんと一緒に乗り込んだ。 予想はしてたけど、乗ったとたん、ぐいぐい押されて遊馬さんと離れちゃった。車両の端の方に押し込まれて、身動きも取れないよ。 遊馬さーん、どこ? さすがにこんなに離れなくてもいいでしょ? キョロキョロしてると、俺の左後ろにいるのを見つけた。 なんでこんな混んでる電車に乗っちゃったのー! いつもはこんなに混まないんでしょ? ……は! まさか! まさかとは思うけど、朝から一戦交えてたから、遅くなっちゃったのか! えー! なんだよー! 俺のせい? ううん。うまくいかないね。あちらを立てればこちらが立たずってやつだ。 むぅ。むくれているうちに、俺たちを乗せた電車は走り出した。 たたん、たたんっ。 たたん、たたんっ。 前に立ってるおじさんの背中に顔を突っ込んでるから、息が苦しい。 おじさんごめんなさい、ちょっと息継ぎします。 もぞもぞっと動いたら、少し余裕ができた。 もう、遊馬さんは大丈夫なのかなぁ。 頭だけ振り向いて、遊馬さんを見た。 は? ……は!? 何あれ、どういうこと! 誰か! 誰か説明して! 責任者呼んで!!

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