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7-荒波に揉まれるおしりとか(6)
ちょっとした混乱の中、俺は掴んだ痴漢の手だけは離すまいと頑張ってた。
もみくちゃになりながらも、ちょうど電車が止まったのが分かったから、痴漢の手を掴んだままホームに降りた。
「え?」
さっき痴漢コールがユニゾンしたの、覚えてる?
俺はもう電車を降りるのに必死で、半分くらい忘れてたんだけど。
ホームに降りたのは、俺(と痴漢野郎)だけじゃなかった。
もう一組降りた。
遊馬さんと、遊馬さんに腕を掴まれた一人の男が。
「え? 遊馬さん。その人誰ですか」
「誰って……しろたに痴漢してた男だが。……まさかと思うが、そいつも痴漢か?」
「はい。遊馬さんの」
「気がつかなかった……しろたが痴漢されてたから、それでかっとなって」
「俺もです。振り返ったら、こいつが遊馬さんに触ってて、それで」
いやいやいや、触られてて、それも痴漢されてて、気付かないとかあり得ないだろって思う?
俺もそう思う。でも、それが現実だからしかたない。
そして本人が気付かなくても、罪は罪。
駅員さんに痴漢ですって言ったら、詳しい話を聞かせてほしいということで、駅員さんのいる部屋に連れてかれた。
そこで改めて事情を説明して、動画を見せて、痴漢二人を引き渡した。
今までは、絶対逃がさない! って思いで必死に痴漢の腕を掴んでただけだったけど、手を離して落ち着いたら、怒りがふつふつと沸いてきた。
「はっ、誰が野郎の×××なんか触るかよ」
遊馬さんに痴漢してた男が、椅子に座って開き直ってる。むか。なんだあいつ。駆け寄って胸ぐら掴もうとしたら、いち早く察した駅員さんに止められた。
「お前! お前遊馬さんの、その、なんていうか、やらしいとこ、触ってただろ! 絶対許さないからな!」
駅員さんに肩を掴まれながらも、俺は痴漢に指を突きつけて声をあらげた。
俺の怒気に触発されたらしい遊馬さんが、すすすっと俺に痴漢してたという男に近寄った。
穏やかに聞く。
「しろたさんに触れていたのは右手ですか? それとも左手ですか? ……左手ですよね。私、見てましたから」
言うなり、左足の甲をかかとで踏んで悶絶させた。
ああ、あれ痛いやつだ。遊馬さん怒ってくれてる。
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