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7-荒波に揉まれるおしりとか(7)

そんなことがあって、会社に着いたのは午前もだいぶ過ぎてからだった。 もちろん、遅れる旨は会社に一報をいれてある。 「朝からひどい目に合いましたね」 「本当に。もう二度とあんなことがないよう祈っています」 二人並んで通路を歩いて法人事業部の部屋に行く。 出社時刻は過ぎてるから、人影はまばらだ。 到着。 「遅くなりましたー……あれ?」 事務室内も、人が、まばら? 皆打ち合わせにでも行ってるのかな? 出入り口に近い末席付近はそうでもないけど、奥の方はすかすかなんだ。どうしちゃったの? 「あっ! 部長! よかった、やっと来てくれた」 高山さんがすがるような顔で遊馬さんのところにやって来た。 「ストですか?」 遊馬さんがそう聞いて、高山さんがぎくりと立ち止まった。 「え、ええと、ええ。そうみたいです」 ぎこちなく答える。 「すみません。全て私の不徳の致すところです」 遊馬さんが静かに深く頭を下げた。 すると、慌てたように高山さんが口を開いた。 「そ、そんな! ……私は城崎部長についていくつもりです。確かに、ネゴり方は通常じゃないですけど、双方がそれで不満なく仕事が成り立っているんだから、問題ないと、思います」 遊馬さんはそれを聞いて寂しそうに微笑んだ。 「ああ、そう思ってくださる方もいらっしゃるんですね。ありがたいです」 一息ついて仕事にかかる準備をする。 PCを立ち上げながら部屋全体を見回した。 三人いる課長は全滅。まあね、前から不穏な空気だしてたもんね。たぶん、この三人が首謀で、他に賛同した人たちが出社拒否してるんだろう。 七人いる係長は、一人だけ出社してる。 その他もバラバラと空席が目立つ。 俺は最初から遊馬さんが好きだったから、枕の件はショックだけども受け入れてた。考えてみたらそれってまれなケースで、普通は枕営業だなんて聞いたらひくだろう。そこまでして出世したいかって、思うだろう。 あまり言いたくないけど、だから、この状況は成るべくして成ったんだと思う。 席に着いた遊馬さんは、声を張った。 「私のせいでご迷惑をお掛けして、申し訳ありません。決裁が滞っている案件がありましたら、部長権限で通しますので、お知らせください」 遊馬さんは続けた。 「今、ここにいてくださる皆さんには感謝しています。ありがとうございます」 翌日は皆何事もなかったかのように出社した。 遊馬さんには厳しいお叱りの言葉があったらしいと噂になった。遊馬さんが動いたのかは知らないけれど、その他の人には懲罰が下ることはなかった。

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