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8-往きはよいよい帰りはこわい(2)

と、そんな日中を過ごして夜になった。 夜になったなら、その、二人で仲良くごにょごにょすれば、気分も上がるってものでしょ? それなのに。 「――やだっ! 今日はだめだ! 大人しく寝ろ!」 ベッドの上で膝を抱えて座って、壁を睨んでる遊馬さん。 その背中にすがりつく俺。 「遊馬さぁん、お願いしますぅ。ね?」 「可愛く言ったってだめだ!」 口ではけんもほろろな遊馬さんだけど、ちらちら横を気にする目は、俺のぷるぷるチワワなうるうるおめめを確実に捉えてる。 ほら、上目遣い。 ほら、うるうる。 こっちの角度の方が可愛いかな? 遊馬さんを見つめたままちょっとだけ首を傾げてみた。 遊馬さんが、うっと息をつまらせる。 譲歩してみる? 「わかりました、遊馬さん。入れるのは一回にしましょう。これならどうですか「ヤダッ」」 食い気味に断られたんですけど。 遊馬さんのほっぺが不満げに膨らんでるんですけど。 不満なのは俺の方ですよ! なんでダメなんですか! 恋人とエッチしちゃダメってどういうことですか! 確かに、どうしたって遊馬さんの方が負担大きいから、挿入は一回にって譲歩したのに! ダメ? そんなにいやですか? 今までは特に不満を言われたことなかったんだけどな。 勢いよければそれでいいってことじゃないんだぞって? 更なるテクを求められてるの? そんなにやりたきゃ、秘技でも習得してこいってこと? でもそれなら練習が必要ですよね。練習するなら、遊馬さんの協力が不可欠ですよね。まさか遊馬さん以外と練習なんて、嫌ですよ俺は。 ねぇ遊馬さん、何がダメなんですか? ……わっ。 油断した隙に、遊馬さんに押し倒された。 まさかそんなことになるなんて思ってなかった俺は、ベッドの上にひっくり返って、まんまるチワワおめめのまま、すぐ上に迫った遊馬さんを見上げた。 まっすぐで、さらさらの黒髪が顔の周りを縁取ってる。きめの細かいお肌は、毛穴とか曇りなんて知らないかのように透き通るように白くてつやつや。 あぁああああ、ダメです。ダメなんです遊馬さん。 俺は遊馬さんの意思の強さを表すような、そのまっすぐな眼差しが好きなんです。 こんな近くで見つめられたら、そりゃもう、夢中になっちゃうに決まってるじゃないですか。 よいしょ!! 遊馬さんの肩を掴んで、くるりと位置交代。 俺が遊馬さんを見下ろす体勢……だけど、そんなの長くは続けていられない。すぐに遊馬さんの唇を奪った。 「んーん! んー!」 キスしながら、遊馬さんにぽかぽかぶたれる。 でも負けない。遊馬さんが好きだから。 「んー……」 しろたぁ……って言ってるみたいに遊馬さんの勢いが弱ってきた。 遊馬さんの両手は、俺の服を掴んでる。 「……ん」 ぽつん、と呟いて、遊馬さんは唇を緩めて俺を招き入れた。 気張るわけではなく、もちろん気を抜くわけでもなしに、遊馬さんとキスをした。さっきの反抗が嘘みたいに思える、雨の日のお散歩みたいなしっとりしたキス。 「……ダメ、ダメなんだしろた」 遊馬さんがようやく呟いてくれた。 「なんでですか?」 「しろたとすると、嬉しくて、愛しくて、すごく気持ちよくて、僕の頭が馬鹿になるんだ。……そんなみっともないところ、しろたに見せたくない」 遊馬さんが、嬉しいことを言ってくれた。 「えへ。俺も、遊馬さんとすると、遊馬さんが好き過ぎて、夢中になって、理性とんじゃいます」 首を傾けて、にこっと笑ってみた。 「じゃあ、ゆっくりやりましょ? ね? 理性がとんでも、すぐ手を伸ばして取り戻せるくらい。それならきっと大丈夫ですよ」 真っ赤になった遊馬さんは、迷ったあと、ひとつ頷いてくれた。

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