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8-往きはよいよい帰りはこわい(7)
「……、……っ!!」
イった直後、体の力が抜けて、遊馬さんの上に倒れ込んだ。
遊馬さんはその瞬間、息が止まっていたみたいで、遅れて大きく息を吐いた。
同時に、震える手で俺の髪を撫でてくれた。
ああ、好きだ、愛しい遊馬さん。そう思った。
遊馬さんは、理性をふっ飛ばして、じゃなく、正気を保ったままセックスしてくれた。
恥ずかしかっただろうけど、俺を、しろたをはっきり認識してセックスしてくれた。
「遊馬さん、俺で気持ちよくなってくれて嬉しい。大好きです。好きで、好きで、好きです」
そう言いながら、まだ快楽の余韻をその瞳に留めた遊馬さんを抱きしめた。
「抱きしめるなバカッ! 誰がそんな事許したっ」
遊馬さんは顔を真っ赤にして俺の腕の中でバタバタ暴れる。
ああ、そんなに密着して暴れると、遊馬さんのすべすべもちもちな肌が俺を挑発して……。
「馬鹿者ッ! お、大きくするなぁッ!」
まだ入ってるのに、暴れるから。
優しい遊馬さんは、罵詈雑言の語彙が少ない。
面と向かってはもちろん、陰に回っても、誰かを罵るなんて遊馬さんはしないから。
頑張って、『馬鹿』『阿呆』くらい。その二つだって、俺にしか使わない。
つまり、 この世で唯一遊馬さんに罵ってもらえる俺は、幸せ者だ、ということだ。
「馬鹿の一つ覚えみたいに言いやがって。す、好きって言えば、なんでも通ると思うなよ」
遊馬さんが強がってる。
でも、俺知ってるもん。
「好きって言うと、遊馬さんの中は悦んでくれますよ? きゅんって俺のこと抱きしめてくれます」
おかげで俺はさっきから、また始めたくなるのを必死に堪えてる。
「ち、違うっ。それはっ、そのっ」
「何ですか?」
意図せず追い詰められてしまった遊馬さんが、必死に頭を捻ってる。
「今日は急に晴れただろ? つまり気圧が高くなったわけだ。相対的に体内の気圧が低くなって、その、きゅん、とか、するんだ」
落ち着いて! 意味が分からないです遊馬さん!
「遊馬さんはポテトチップスの袋ですか」
山の上ではぱんぱんだったおやつの袋が、下山するにつれて凹んでいく絵が脳裏に浮かんだ。
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