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8-往きはよいよい帰りはこわい(8)

シャワーを浴びて、床に着き部屋を暗くした。 シングルベッドに二人で寝ているのだけれど、くっついていたい気持ちもあって、あまり窮屈さは感じない。 遊馬さんの左手小指をにぎにぎしながら、ぼんやりと眠くなる。 暗闇の温度は、ベッドの中の温度と一緒だ。暗がりで二人寄り添う。 「遊馬さん……明日、何しましょうか」 少しの沈黙のあと、遊馬さんが口を開いた。 「枕、買いに行こうか」 「枕?」 「そ、その、うちには枕が一つしかないから、しろたが泊まる時に困るじゃないか」 遊馬さんがもじもじしてくれた。 ふふ。嬉しいな。これからも遊馬さんの家に泊まりに来て良いって。 「そうですね。枕ほしいです」 本当は、今枕代わりにしているクッションが遊馬さんの匂いがして幸せだし、このままでも良いんだけど、遊馬さんの家に、俺の枕がある、って状況も悪くないから、賛成した。 歯ブラシはもう置かせてもらってるし、枕の次はなんだろう。寝間着かな。ああ、でも、たぶん遊馬さんは俺が遊馬さんの寝間着を借りて、ぶかぶかになっているのを見るのが好きだから、寝間着はいらないな。やるなら下着くらいかな。 ああ、買い物かぁ。どこが良いかな。最近ここから車で行ける郊外にアウトレットモールができたらしいし、ちょっと行ってみたいな。うーん、でもそれは枕とは別だな。よし、モールは来週行こう。 そんなことをほわほわ考えていたら、遊馬さんが寝息をたてはじめた。 遊馬さん寝ちゃった。 こっそり盗み見る寝顔。寝顔も綺麗。機嫌良くなってくれたのかな、ちょっとだけ微笑んでいて嬉しい。 何が良かったんだろう。セックスが気持ち良かったですか? それとも、明日の外出が楽しみなのかな? 何だろうな。 遊馬さん、俺はね、遊馬さんがイった後、まだたぶん意識がぼんやりしてる時に、俺の頭を撫でてくれたのが一番嬉しかったですよ。もちろん他にも嬉しいことはたくさんあったけど、今日はこれが一番。 はあ、俺も眠くなってきた。寝よ。あ、寝る前にトイレに行こう。うん。 ……。 遊馬さん、ただいま。 遊馬さんを起こさないようにそぉっと隣に入る。 「……ぃ」 ん? 遊馬さん今何か言った? 寝言? 俺は遊馬さんを見つめて耳を澄ました。 「ごめ……ん、ごめん、なさい」 呻くように遊馬さんが言葉を零す。 「僕が……僕が悪かったです。だから」 苦し気に唇を震わせる。どうしたの遊馬さん。何にそんなにうなされてるの。 「もう、許して、くだ……さい……」 その日、再び遊馬さんが微笑んでくれることはなかった。

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