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9-彼が望んだもの(1)

うーん……。 辺りが明るくなってる。朝になったのかな? ええと、そう、昨日は遊馬さんの家に泊まって、いつも通り遊馬さんと同じベッドで寝たんだ。 カーテンが開いている。てことは、遊馬さんはもう起きたんだ。 ぼんやりした頭でそこまで考えてようやく、髪を優しく撫でられているのに気が付いた。 「あすま……さん」 寝起きのかすれた声で名を呼んだら、窓の外を眺めていた遊馬さんが、視線を落として俺を見た。 「おはよう、しろた」 うずくまるような姿勢だったけど、寝てる俺を嬉しそうな笑顔で抱きしめてくれた。 「おはようございます」 額にキス。遊馬さん、昨日の眠り際はあまり気分が良くなさそうだったけど、今はそうでもない。どうやら俺が目を覚ますのを待っていてくれたみたいだ。 「今日は天気がいいみたいだぞ。一日中晴れだ。外出日和だな」 「外、眩しいですね」 「うん。あ、出掛ける前に洗濯してもいいか?」 洗濯機に汚れ物を放り込んでぐるぐると洗って、きれいになったシャツやタオルを、二人で干した。 ベランダが一気に爽やかになる。 一通り干して一休み、ソファに座って買い物の計画を立てながら、コーヒーを飲んだ。 「枕買うんですよねっ、枕っ」 「そうだな。……こことか、寝具扱ってるんだが、どうだ?」 遊馬さんが数軒、スマホで商品のラインナップを見せてくれた。 落ち着いた雰囲気の店から、ポップな店まで、いろいろだ。 一通り見た俺は、遊馬さんにスマホを返した。 「ここ、ここがいいです。可愛いけど、遊馬さんの寝室にも合いそうな気がします」 おそらく女性がメインターゲットだろうけど、ユニセックスなテイストもあって、俺が使っても違和感はなさそうだ。 「じゃあ、最初にここに行ってみよう。今日はなんだか、無性に買い物がしたい」 「ストレス溜まってるんじゃないですかー?」 遊馬さんの言葉を聞いて、昨日の夜思ったことを冗談交じりに言ってみた。 「買い物したいなら、俺、パジャマが欲しいです」 「パ……、だめだっ!」 予想通りの反応が返ってきて、思わずにやっと笑っちゃった。 「しろた、解って言ってるだろ! パジャマは僕のがあるから、しろたのは要らないんだ!」 機嫌が良さそうだからつついてみよっか。 「だって、遊馬さんのパジャマは、俺には大きいです。ズボン貸してくれないしー」 分かってる。遊馬さんは俺のほどほどな露出を求めてるのは、よく分かってる。 ついでに、脚を出させたくてわざとズボンを出してこないのも、分かってる。 「う、その……大きくても似合ってると思うぞ? 寒いなら暖房の温度上げるし、あったかい布団出すし。……僕のじゃ、イヤか?」 なんと遊馬さんがうるうる上目遣いで、控えめに迫ってくる! 不意打ちすぎて、心臓が! 「いえ! 遊馬さんのパジャマ好きです! やっぱ買わなくて大丈夫です!」 そう言ったら、遊馬さんの顔がぱぁっと晴れた。 「そうか! よかった」 俺も、遊馬さん好みの服装したいし、ね。遊馬さんを甘やかしすぎかなぁ。いや、でも、『可愛い可愛い可愛い』って目で言ってくれる遊馬さん大好きなんだもん。 さ! 二人で出掛けよ!!

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