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9-彼が望んだもの(3)

当初の目的を無事に果たして、俺たちは他の店も眺めながらしばらく歩いた。 「あー! あのシャツ! あのシャツ絶対遊馬さんに似合いますよ!」 店頭でマネキンが着ていたVネックのシャツに俺が引っ掛かったり。 「おい! しろた、あのシャツ試着してみないか」 「あー。遊馬さんに似合いそうですね」 「違う! しろたが着るんだ。下着だけの状態で、試しに着てみてくれ」 遊馬さんは、よほどぶかぶかオーバーサイズに生足魅せの組み合わせが好きなんですね。 言われるままに試着したら、遊馬さんから高評価をもらえた。ついでに、離れたところで俺たちを見守っていた店員さんが、赤面してどっかに行っちゃった。あはは。店員さんも、気に入ってくれたのかな? ◇ ◇ ◇ 買い物したバッグをたくさん提げて歩いていた。 「結構買い物しましたね。遊馬さん、気は晴れました?」 「うん? 心配してくれてたのか。ありがとう。いい気分転換になったよ」 すっきり笑顔の遊馬さん。 遊馬さんがにこにこ、俺もにこにこ。……で、終わるはずだったんだけど。 遊馬さんに、背後から知らない声がかかった。 「城崎? ……城崎か?」 遊馬さんが瞬時に硬直して、白い顔で目を見開く。 近づいてきたのは、目つきのきつい男の人だった。 身動きできない遊馬さんの肩を掴んで引き寄せ、買い物袋を眺める。 「ふぅん。なにお前、まさか幸せになってんの?」 「お久しぶりです、先輩。……ただ、買い物をしていただけです」 先輩? 確かに、言われてみれば二つ三つくらい年上に見える。 「可愛い彼氏と仲良くデート、かよ。幸せそうで結構だな。……誰かさんのせいで、俺は未だに地獄の底なんだけどなぁ? お前だけ幸せになるなんて、そんなの許されるわけないだろ、お前も一生地の底でのたうち回って苦しむんだよウジムシが」 ついでに手を伸ばして俺の頭を掴みそうだったから、遠慮なく払いのけた。 遊馬さんは先輩って呼んでたけど、そこに敬意なんて欠片も含まれてなかった。 「彼はただの仕事上の知り合いです。付き合っていません。買い物中にたまたますれ違ったので挨拶をしていただけです」 !? いや、何か理由があるんだよね。たぶん俺を庇ってくれてる。 「白田、買い物中に邪魔して悪かったな。また、月曜日に」 遊馬さんが笑顔を作って、俺に手を上げた。 「あ、い、いえ、こちらこそ、です。じゃあ会社で」 俺は遊馬さんの意を汲んで、その場を離れた。 怯えたような遊馬さんの様子は心配だったけど、遊馬さんの目は、『帰れ』とはっきり言っていた。 後ろ髪を引かれながら、駅の方へ足を向けた。

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