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#1 夏休みの廊下、陽光
見知らぬ校内で、僕は途方にくれていた。
つい先程までは、これから担任になる横山先生に案内をして貰っていたのだけれど、顧問である部活でトラブルがあったらしく、部員に引っ張られながら、先生は姿を消してしまった。
「階段昇って左側の、突き当たりから二番目の教室だから!」
その言葉を反芻しながら歩いて来た訳だが、どうも様子がおかしい。
目の前の教室には『1B』の札が下がっている。明らかに目的の教室と違う。
いくら初めて来た場所とはいえ、自覚ある方向音痴さのなせる技なのかと呆れてしまう。気を取り直して、僕はもう一段階段を昇った。
もう一段上がって三階、左側に折れたところ、ちょうど突き当たりの窓際から、きらりと光が差した。
不思議に思い瞳を凝らして判った。
一人の少年の髪が、開け放った窓からの風を受けて、揺らめいていたのだ。
『あ、金髪……』
頬杖をついて窓の外を眺めているその少年の髪は、金髪だった。
光を浴びているためか、陽光の中に溶け込んでほぼ白に、輪郭を失った白いさざなみと、かろうじて見える緩やかな髪の流線とが一対になっていた。
夏の午後の日差しの中、きらきらと光の粒子が乱反射し、その中に少年の側面が見え隠れしている。
『さすがに校則が少し緩めだってだけあるかな……』
これまでの学校にはいなかった風貌の生徒に、少し臆しながらも僕は声をかけた。
「あの、すみません……」
振り向いた少年の顔を見て、僕は驚いた。
今まで見たこともないような、美少年だった。
髪色と同化するように抜けるような白い肌、小づくりで華奢な顎から耳にかけての線 が絵に描 いたように際立っている。特に、瞳が印象的だった。
目尻はやや切れ上がって長く、だが縦にも大きい、毛先が緩く上向いているのが判る長い睫毛、気の強そうな両の瞳がこちらを射抜く。
色素が薄いのか、瞳の色が焦茶や薄茶が複雑に混ざったような絶妙なニュアンスを浮かべている。
澄ましたように整った鼻、唇は白い肌のせいか余計薄紅にじんわりと染まって見える。
まるで高貴な猫を想わせるような、はっと惹き込まれるほどの中性的な貌 立ちだった。部位 一つ、どれを取っても非の打ち所がなかった。
おまけに白く見えていた髪は、本当に白に近い白金 だった。
耳の上には、薄い明緑 のような幻想的な色がさり気なく仕込まれており、色素の薄さ、浮世離れした佇みを一層際立たせている。よくこの髪色に全くひけを取っていないなと驚かされる。
片方の耳には銀の鎖型のピアスが一本、繊細に揺れており、放っていた光の原因をもう一つ知った。
だいぶ細身だ。少年、ではあるが一瞬性別の判断がくるうくらい華奢で、白い顔の下から伸びる首許には、艶やかに浮き出た鎖骨が彫刻の意匠を極めた飾りみたいに刻まれている。
制服のシャツの釦 は、上三つ程は留められておらず、白い肌は陰影とともにシャツの中へしのばされていた。
スラックスはふくらはぎの中程まで折り込まれていて、片方にはアンクレットが煌めき華奢な足首を彩っている。
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