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第4話
「初めて会うのにいきなり六時間って、驚いたと思うけどお付き合い下さい」
「勿論です。俺でよければ……。あの、時間内であればホストをチェンジ出来ますので、気兼ねなく」
カップを口にしながら言えば、彰人は目を丸くした。
「いや、きみがいい」
迷いのない即答に、思わず笑みを零してしまう。
「まだ会ったばかりなのに」
「そうだね。でも話し方とか雰囲気とか、すごく安心するから」
それは、この仕事をする上で一番の褒め言葉だった。
「そう言ってもらえると嬉しいです」
ミルクのたっぷり入った熱いカフェラテを、冷ましながら注意深く啜り、「美味しい」と感嘆の声を漏らせば、彰人はほっとしたように微笑んだ。
「彰人さんは、グレン・グールドがお好きなんですか?」
「え?」
「モーツァルトのソナタ。ずっとかかってる」
尋ねると頷き、「きみも好きなの?」と問われた。CDケースが置いてあるわけではなかったが、グールドは音が特徴的なので分かる。
「大好きです。グレン・グールドはゴールトベルク変奏曲が有名ですけど、バッハの他にもモーツァルトとかベートーヴェンのCDをよく聴きます。あとブラームスも」
「僕も好きなんだ。型破りとか言われて実際普通じゃない速度だったりするけど、気付いたら夢中になってエンドレスで聴いてしまう。モーツァルトのソナタ八番の第一楽章とか」
「さっきかかってましたね、ケッヘル……」
「三一〇。他にピアニストは誰が好き?」
「内田光子さんとか、バックハウスとかよく聴きます」
「いいね、僕も好き。あと、グールドに似てると言われてるファジル・サイとか。内田さんのCD何枚か持ってるよ。あとでかけよう」
共通の趣味を見つけた後は打ち解けるのも早く、会話が弾み、笑い合い、長いと思われた六時間があっという間で気が付けば朝になっていた。
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