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第5話
彰人は土曜日の夜に一人で家に居たくなかったのだと言った。たったひとりの家族だったゴールデンレトリバーが老衰でこの世を去り、遺された彰人は一人で過ごす週末の夜を耐えることができなかったと。そのときちょうどデリバリーホストの広告を街で見かけ、試してみようと一週間後の予約をしてみたということだった。
ショウは普段、それほど饒舌な方ではなく、彰人も同様のようだったが、不思議と会話のリズムが合った。彰人はショウの話し方や雰囲気を褒めてくれたが、ショウにとっても彰人の穏やかな語り口は心地好かった。声も顔も好みなのは内緒だ。
「来週もまた会える?」と指名で予約を入れてくれたことも嬉しかった。
あれから週に一度、彰人と会う土曜夜の仕事が、ショウの心の支えになっていた。彰人に会える日まであと何日と指折り数え、次に会ったらこんなことを話そう、こんな音楽を聴こう、美味しいお菓子を持っていって一緒に食べよう、など、毎週土曜の夜が楽しみで仕方ない。
そのことが、仕事を頑張る張り合いになっていた。
「お誕生日おめでとうございます、麻由子さん」
この日の夜、出向いた先はレストランだった。会員の森田麻由子は二十五歳のOLで、誕生日をお祝いして欲しいという依頼だった。本当は恋人と食事をする予定で予約していたが喧嘩別れしてしまったので、ショウにお鉢が回ってきたのだった。
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