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第9話
待ち望んでいた土曜日は生憎の大雨だった。朝から激しい雨が降り続き、ニュースでは超大型台風の接近が報じられていた。関東に最接近するのは土曜の深夜から日曜の朝にかけて、と言われている。まさに、彰人の予約している時間だった。
天候のことなどいつもなら頓着しないマネージャーから、行けるかどうか確認のLINEが入った。ということは、まだ彰人からはキャンセルの連絡が入っていないということだった。即座に『行けます』と返信し、会えることに心から安堵した。
ショウは膝くらいまであるロング丈のレインコートと長靴を身に着け、壊れても惜しくない古い傘をさして荒れ模様の外へ出た。
地下鉄に乗るまでと、地下鉄を降りてから、強風に煽られた大粒の雨がシャワーのように身体に打ち付ける。ところどころで建物の陰に身を潜めて風雨をしのぎつつ、どうにか要塞のようなマンションへとたどり着いた。傘など何の役にも立たず、却って危険なため早々に畳んでただ手に持っていた。
「……うわ、すごいな」
エントランスの手前のピロティで、ショウは改めて自分の惨状を確認し思わず声が出た。レインコートを着ているのに上から下までぐっしょり濡れそぼち、どうしたものか途方に暮れながらとりあえず胸前のボタンを上から外していった。
そこへ、不意にエントランスの自動ドアが開いて、誰かを探すように彰人が走り出てきた。そしてレインコートを脱いでいる途中のずぶ濡れのショウに気付き、駆け寄ってくる。
ショウは、キラキラ輝いて見える彰人から目を逸らすことができず、微笑むことも挨拶もできず、ただぼうっと見つめていた。
「ひどい台風の日に呼び出してごめんね。大丈夫?」
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