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第10話

「ひどい台風の日に呼び出してごめんね。大丈夫?」  彰人は手に持っていた大判のバスタオルを広げ、ショウの頭からかぶせた。 「こんなに濡れて外にいたら風邪をひく。早く家に入ろう」  わしゃわしゃっとバスタオルで髪を拭くようにした後はタオルごと抱きかかえるようにしてエントランスへ向かった。びしょ濡れの自分が綺麗な建物の中に入るのは気が咎め遠慮していたが、いつになく強引に引き寄せられ自動ドアをくぐる。  本来は二十八階の彰人の部屋のドアチャイムを押し、玄関ドアを開くところからが仕事だ。だからまさか外にまで迎えに来てくれるとは思っていなかった。  エレベーターは二人を乗せてノンストップでするすると上昇する。狭い箱の中、バスタオル越しではあるが彰人の温かい手に包まれるようにされて、ショウは嬉しくて笑いがこみ上げてきた。嵐のせいでテンションがおかしなことになっているのかも知れなかった。  それを震えと思われたのか、「大丈夫?」と心配そうに尋ねられてしまい、申し訳なさと昂揚感で胸が一杯で、「今日、会えて良かったです」と筋の通らない返事をし、恥ずかしくなった。  だが、一層強く肩を抱かれ、掠れた声で「僕もです」と呟くのを聞いて、ショウは自分の頬が上気するのを感じた。  この人のことが好きだと思った。

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