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第12話

 ショウの脳内では、マンションのエントランスの外まで迎えに来てくれた彰人が、ショウを見つけて花が咲くように微笑んだ先ほどの一連がエンドレスで再生されていた。  年上の大人の男の人を花で形容するのは適当ではないかも知れないが、実際にキラキラ輝いて見えたので仕方がない。整った顔立ちに、笑うと途端に甘くなる表情、すらりとした長身、落ち着いて穏やかな声音、すべてが好みで、音楽の趣味も合うとなれば好きにならないはずがなかった。  はあ、と再びため息を漏らし、ショウは鼻の辺りまでぶくぶくと湯船に浸かった。  エレベーターに乗っている時に肩をぎゅっとしてくれたことがまざまざと蘇る。優しいのも強引にされるのも彰人にされるならどちらも嬉しかった。抱いてくれないかな、と考えが及ぶに至って、首を振った。  これ以上良からぬことに思いを馳せる前に髪や身体を早く洗ってしまおうと立ち上がった時、自分の身体のあちらこちらを青黒く彩る打撲痕や内出血した後の紫色の痣が目に入り、昂ぶっていた気持ちが一気に消沈した。  客に恋をして浮かれる資格など、デリバリーの自分にはあるはずが無いのだった。

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