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第14話
「迎えに行けるわけじゃないし、僕はただ家で待ってるだけで、一方的にきみに相当の負担がかかる。自分勝手でごめんね。体調を崩さないといいんだけど」
「謝らないでください。俺の方こそ、あなたに会いたかったので、キャンセルにならなくて良かったです」
誰とでも出来る表面上の受け答えの中に、つい本音が混ざってしまったことに罪悪感を感じた。そのため顔が自然に俯いてしまうのを誤魔化すように、貴重品用に借りている袋から決済用の端末を取り出した。あなたに会いたかった、と口にしたタイミングで決済をするなんて、いかにもビジネスだと言わんばかりで失礼な行為だ。
だが、彰人はそのことを気にする様子もなく、ショウが「基本料金の決済を」と言う前からクレジットカードを差し出してきた。
彰人がこの関係を契約行為だと弁えていることは明らかだった。至極当然のことだ。自分だけがおかしな気持ちを持て余して浮ついているのだった。
「バスルーム広いんですね」
端末を操作しながら、広いのはバスルームだけでもないか、と肩を竦めた。
「ああ、このマンション、ファミリータイプだから小さい子供と親が一緒にお風呂に入れる広さなんだろうね。うちも最初は両親と僕と犬の四人で住んでいて、両親は交通事故で居なくなって、犬はこの間……。今は一人だから床面積的にすごく贅沢してるみたいだけど、引っ越すのが面倒なだけだよ」
カードを返し、端末を仕舞う。これでしなくてはいけないことは全て終わった。
ショウは少し緊張を緩めて、カップに手を伸ばした。
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