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第15話

「家の中に思い出がたくさんあると、却って淋しくなったりしませんか?」 「そうだね。見えないけど居ないはずの家族の気配を感じてほっとすることもあるし、逆に誰もいないことを痛感することもある。でも、普段は寝に帰るだけであんまり家にいないからね」 「仲のいい家族だったんですね」 「後になってからそう思った。特に犬は、親が居なくなって二年間支えてもらったから」  カップを両手で持って指先を温めつつ、ショウはカフェラテを口にした。ミルクがたっぷり入っているのはいつもと同じだが、風味が少し違うような気がした。 「オレンジの香りがします」 「少しアレンジしてみました」  悪戯が見つかった子供のように笑う彰人に、ショウは「美味しいです」と微笑み返す。 「よかった。いつも同じだと飽きちゃうかと思って」 「いつも美味しいですよ」  にっこり笑いかけると、しばし見つめられ、少しだけ間があいた。その間、BGMはメランコリックで優美な調べから一転、粒の揃った美しい音が洪水のように紡ぎ出される速いタッチの曲に変わった。 「ありがとう」  困ったように微笑んだ彰人は、「寒くない?」と立ち上がり、白い綿毛布を出してきてショウの膝に掛けた。ショウがいま着ているのは彰人が着替え用に出してくれた、柔らかい素材のプルオーバーとスウェットで、やはり色は白だった。部屋の家具が黒っぽいグレーに統一されているので調和していて視覚的にも気持ちがいい。

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