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第17話
「えっと……」
大丈夫だと答えようとしたら、彰人の大きな手のひらがショウの額を覆った。
「熱は無さそうだけど、やっぱりさっき雨に打たれたのがよくなかったのかも。頭とか喉とか痛くない? 風邪薬あったかな」
ちょっと待ってて、と立ち上がった彰人のシャツの裾を、ショウは反射的に引っ張った。
「違うんです。大丈夫。風邪でもないと思うので、それより……」
立ったまま、まじまじとショウを見下ろす彰人の視線に耐えられなくなり、俯いておずおずと小声で申し出た。
「ここに居て欲しいです。どこにも行かないで」
「外に行くわけじゃないよ。あの棚の引き出しを探すだけだよ」
二人が居るソファの正面にテレビがあり、右側の壁の隅に、下段がマガジンラックになっている背の高い棚があった。彰人はそれを指さしたが、しばし後、考え直したかのようにもう一度ソファに座り、ショウに向き直った。
「どうしたの? 心配な事があるの?」
「ごめんなさい。本当になんでもないんです。体調も悪くないです」
「そう?」
ショウは自分の気持ちの浮き沈みに困惑していた。
会いたかった人に会えて喜んでいたのもつかの間、自分の身体中の痣を見て自らの立場を認識して落ち込み、また、好きな音楽と美味しい飲み物を味わいながら彰人と過ごしている最中にネガティブな記憶がフラッシュバックして再び突き落とされた。
こんなに短いスパンで感情を揺さぶられた経験がなく、どのように立て直せばよいのか分からなかったし、残りの時間がどんどん少なくなっていくことから焦りも感じていた。少しも離れたくなくて「ここに居て」とせがんだことも、自身を責める一因となっていた。
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