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第27話
「色づかいは綺麗だけど、これは何」
淡いグリーンを基調とする背景はところどころに紫色や茶色を配し、森のようにも見える。描きかけではあってもこうしてナツキが見てくれることで、隣から覗き込む自分も第三者のような視点で眺めることができた。
真ん中には洋館の門を描こうとしているが、薄い簡単な線を引いているだけで手を付けていなかった。
「モーツァルトのケッヘル三一〇」
「は? 日本語を話してください」
「曲のイメージ。まだ途中なの」
「こんなに絵が描けるのに、学校行きたいのかあ」
理解できないね、とナツキはスケッチブックのページをぱらぱらめくった。
「学びたいのはデザインで、こっちは趣味の水彩画」
「同じじゃないの?」
「違うんだよ」
最近の絵から古い方へ順に辿っていき、あるページでナツキの手が止まった。引っかかっているのはどの絵だろう、とショウが手元を覗き込むと、そこにはたどたどしいまでに細く薄い青色の線で描かれた彰人の横顔があった。
まっすぐ前を見ているようで、どこか淋しそうな表情。
ショウの目に映る彰人を思い、眠れない夜に手慰みに描いたものだった。色鉛筆を走らせたがうまくいかなくて、そのままにしていた。
「それはだめ」
スケッチブックを横から奪い取ったが、ナツキには見破られたようで、ああ、これがその人か、という顔をしていた。
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