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第29話

 バイトをやめて、彰人と付き合うことを想像しようとして、諦めて首を横に振った。 「彰人さんとは俺がこの仕事だから成り立ってる。お金も必要だからバイトはやめられない」  ナツキのアドバイスはいつも正しくて、ショウが迷っている時に一条の光で照らしてくれる。自分には曇って見えていない物がナツキには見え、シンプルに整理できるのだ。  だからこそ今も、ショウは納得してしまった。正しいこと、すべきこと、陥ってはならないことがしっくり来てしまった。  でもそれだけに、胸が痛んだ。 「ナツキありがと」  答えが出たことで満足げに微笑んだナツキのスマホが鳴り出した。ディスプレイに見慣れたマネージャーの名前が表示されている。 「あ、呼び出しだ。俺も稼がないとね」  ナツキがスマホを操作して客の名前とホテルの場所をチェックするのを見ながら、ショウは沈んでいく気持ちを飲み込もうとナツキの言葉を胸に刻み込んだ。

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