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第32話

 貴重な六十分の間に、本省からの依頼に応えるべく心当たりのフォルダを探っていると、スマホがぶるっと震えてメール着信を知らせるライトが光った。  開いてみれば、カード決済の連絡メールだった。  引き落とし予定額の表示を見て、目を瞠る。普段あまりお金を使わないので、こんな引き落とし額を見たことがなかった。デリバリー六時間の予約を毎週入れていれば当然のことだ。先月気にならなかったのは月替わりのため一回分の金額だったからだとカレンダーを見て納得した。  不意に、彰人さん、と呼ぶショウの声と笑った顔を思い出し、今すぐ会いたくなった。我ながらはまっている自覚がある。  家族が居なくなって初めての週末が本当に辛くて淋しくて、また翌週あのような夜を過ごすのかと思うとやりきれず、たまたま街で見かけた広告につられて試しに予約を入れてみたのが始まりだった。興味本位というのもあった。電話で希望を聞かれ、おとなしい子がいいです、と伝えてはいたものの、あんなにいい子が来てくれるとは全く想像していなかった。  彼の方は彰人に会うのは仕事であり、自分はデリバリーホストの仕組みを利用している客に過ぎないと頭では理解しているが、時々勘違いしそうになるのだった。

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