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第33話

 この前の土曜日は特に箍が外れた。あの日のショウは気持ちが不安定で、手を繋いだり寄り添ったり、身体に触れ合って安心しているような節があった。ただでさえ、着替えとはいえ自分の服を着て、しかも彼は小柄なので服のサイズが大きくて、袖とスウェットの裾をまくってソファにちょこんと座っている姿が可愛かった。  抱きしめたい衝動を何度か堪えたが結局我慢できず、オプションメニューにキスがあるということは、してもよいのだろうと申し出たのだが。  何かの誤解を解きたかったこともあるのだろうけれど必死な様子で「彰人さんが好き」と告白され、彰人がつられるように正直にショウへ自分の気持ちを伝えたら、茶色い瞳にみるみる涙が溢れた。本気にしか見えないあのリアクションを思い出すと今でも胸が高鳴ってしまう。  本当は、いい歳をして、仕事で自分と会っているだけの、本名も知らない年下の子を好きになるとは思わなかったし、告白する気も更々なかった。自分だけが空回りしているようでみっともないと思っていたからだ。だけど、こんな風にまっすぐに好意を伝えられればぐらぐらする。  時々ニュース等で、キャバ嬢やホストに貢ぐあまり勤務先の金を横領して逮捕される事件が報じられるが、こういうことなのかと身をもって体感している気分だった。美人局に騙されるのも無理は無く、彰人が問題なのは、仮にそうなったとしても後悔はしないし気持ちは後戻りできないということだった。  たとえば、他の人を接客している時のキャラや仕事をしていない時の素顔が、彰人の知っているショウとは全然違っていたとしても、驚くことはあっても嫌いになることはないだろうと思う。そう考えると自分はいかにも騙されやすい世間知らずだ。  かろうじて、週に一度と決めている予約の頻度を増やさないように自制するくらいが関の山だったのだ。

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