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第34話

 次の土曜日、ふわふわとやわらかい素材の綿毛布を広げて二人の膝にかけ、ソファで寄り添ってグールドが演奏する映像を見ていた。真夜中、照明を落とした部屋は、テレビ画面のちらちら揺れ動く光に彩られ、まるで知らない場所のようだ。  パルティータ第五番、ピアノ協奏曲第一番と続く、バッハの曲を集めたDVDだった。  グレン・グールドの演奏法は独特で、低い椅子に座り背中を丸めてピアノを弾く。結構な声量で歌いながら、そして身体を大きく揺らす。子供の頃、ショウはピアノ教室でグールドの真似をして弾き、先生から姿勢が悪いとこっぴどく怒られたことがあった。  生前はコンサートを嫌い、ある年からぱったり人前で演奏をしなくなったということだが、一度でいいから生でピアノを聴いてみたかった。おそらく全世界のグールドファンがそう思っていることだろう。  今のショウにとってはグールドの奏でるピアノの音色を楽しみながら彰人と過ごすこの時間こそが何物にも代えがたいとても特別なものだった。  ショウは彰人に肩を抱かれたまま、気付かれないようそっと瞼を上げ、横顔を盗み見た。彰人はまっすぐテレビを見つめ、迷い無くなめらかにピアノの鍵盤を滑るグールドの指遣いに見とれていた。

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