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第35話

 この人はきっと、仕事がお休みの日にはこうやって、飼っていた犬と過ごしていたんだろうなと想像する。鼻梁の高い横顔の頬にさした影が淋しそうに見えた。  不意に、ショウの肩を抱いていた手が動いて髪を撫でられる。優しい手の動きはまるで大事にされているようで、反射的にもたれていた肩に頬をすり寄せた。そうすればもっと撫でてくれることを知っている。それが気持ちよくて彰人に甘えるように抱きついた。 「眠い?」 「眠くないです」  そう言いながら、ショウはますます彰人に身体を密着させる。彰人は楽しそうにくすくす笑い、大型犬を愛おしむようにショウの身体を撫でた。 「寝ててもいいよ?」 「やです」  そんな返事もないよな、と自分でおかしくなってショウも笑い出した。そもそもデリバリーで呼ばれていて居眠りするなどあり得ないのだから。  このアルバイトを始めて一年以上経っている。これまでにも何十人と接客してきているし、彰人の他にも常連客が居る。だが、ショウの中で彰人と一緒にいる時間は他とは全く異なっていた。  彰人が指名をしなくなれば、簡単に消えてなくなってしまう関係だからこそ、一分一秒も大切にしたい。

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