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第36話
「カフェラテ淹れ直して来ようか。ミルクティーの方がいいかな」
「おかまいなく」
彰人は自分の身体にしがみついているショウの手を苦笑しながらはがし、ソファから立ち上がった。立つと、すらりとした姿勢の良さも相俟って余計に背の高さを感じる。
すっかり冷たくなったカップを二つ手に取った彰人は「ちょっと待ってて」と言い置いてキッチンの方へと行ってしまった。
リビングルームはダイニングキッチンと一続きではあるものの全体で二十畳を優に超える広さである上に、部屋の入口の壁がキッチンの目隠しになっていて姿が見通せない。
テレビ画面では、ピアノを弾くグールドと、フルート演奏のベーカー、ヴァイオリン演奏のシュムスキーをメインとした「ブランデンブルク協奏曲第五番」が始まっていた。ショウはその驚異的な演奏に圧倒されていたが、彰人と一緒に見たいと思いリモコンで一時停止した。
そうして少し待っていたが落ち着かず、ソファから降りてキッチンの方へ足を向けた。照明を落としているリビングと違って蛍光灯の明かりを眩しく感じる。
「彰人さん」
牛乳があたたまる間、電子レンジの前で所在なげに立っている彰人に声をかければ「待っててって言ったのに」と笑われた。
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