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第38話
「はいどうぞ」と彰人はマグカップをショウに手渡す。
「熱いから気をつけて」
「ありがとうございます」
カップを両手でしっかり受け取ったショウは、紅茶の香気を楽しみながら表面に立つやわらかい湯気をふーっと吹いては揺らしつつ、少しずつ口にしていると、ぽつんと彰人の声が耳に飛び込んで来た。
「あの子に似てるな、って思っただけだよ」
その言葉に、ふと、ショウは顔を上げた。
名状しがたい淋しそうな眼差しにどきっとする。
彰人の言う「あの子」とは、部屋に写真を飾ってある愛犬のレトリバーだ。
「僕が家に居る時は、ずっとくっついて歩いてたから。ちょっと思い出した」
彰人はひっそりと笑い、自分もマグカップを手に取った。
「犬に似てるなんて言われていい気持ちしないよね。ごめんね」
「そんなことない。光栄です」
そう答えると、彰人はびっくりしたようにショウを見つめ、ほどけるように笑顔になった。
「だって、大事な家族だって知ってるから。嬉しいです」
「うん、ありがとう」
「ミルクティーも美味しいです」
「よかった」
彰人はショウの隣に腰を下ろし、手にしていたマグカップに口を付ける。
二人は熱くて濃厚なミルクティーを少しずつ味わいながら、目を見交わして微笑み合った。
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