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第54話

「早く学校に入らないと、もう俺二十歳だから、他の同年代の子たちより遅れてるんですよ。就職するのも年齢制限があるから焦ってて」 「しっかりしてるなあ」  感嘆の声には少しの揶揄も含まれていなかった。それどころかまるで往事を懐かしむ年寄りのような反応に、ショウはくすっと笑みを零した。 「ナツキ、って同じ仕事をしている友達がいるんですけど、ナツキからは学校に行くよりも先に、どこか適当なデザイン事務所でアルバイトした方が手っ取り早いんじゃないかって言われてるんです。でも、それじゃ意味がないと思ってて」  たとえ雑用でもアルバイトをしていたら、会社の様子は分かるし、社員とも関係が築けて就職の際に有利かも知れない、場合によってはデザイナーの見習いもさせてもらえるかもしれない、というのがナツキの弁だ。ついでに、この会社はちょっといやだなと思えば、社員ではないので身軽に勤め先を変えられる、とも言っていた。 「彰人さんは? お仕事なにされてるんですか?」 「うーん、なんだろう。事務かなあ」 「事務」  それではまるで分からない。

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