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第56話

 「それじゃあまた、来週ね」と彰人がいつもの言葉をかけ、「また来ます」とショウが応じてこの家を辞してから、もう何時間か経っている。  食器を洗い、洗濯機を回し、掃除機をかける、日曜日のルーティーンだ。違うのは、ベッドメイキングの途中で、ショウの髪の毛を見つけたことだった。  瞳の色と同じ茶色い髪の毛を摘まんだ彰人は、掃除の手を止め床に座り込んだ。  ショウの髪はやわらかくてさらさらで気持ちがいいため、機会がある毎に指で梳くなどして手触りを楽しんでいるのだが、彼はどうもそれを、飼い犬のオトの代わりだと思っている節があった。  確かに、好意をまっすぐに向けてくるところや、静かにそばに居てくれるところなど、オトに似ているなあと思うこともしばしばだけど、ショウはショウだった。  つい先ほどまで自分の腕の中にいた彼を思い出し、盛大にため息をついてベッドにもたれかかる。  可愛かった。  本当に可愛かった。  もとが素直な性格だからか快楽に弱くて従順なのも、吐精する時の鮮烈ともいうべき色気も、なにもかもが彰人の好みで、だけどそれらを凌駕するのはキスするときにどういうわけか物凄く恥ずかしがることだった。

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