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第2話
「へーー意外白い花作るんだ?」
自由に作っていいって言ったら兼子君は少し早く来て自分の制作の時間をとるようになった。毎日きてもらってるんだし、そんなに無理しないで時間中に作っていいよって言っても頑として譲らなかった。真面目なんだな。
白い薔薇をメインにして色々な種類の白い花を作るらしい。どう考えても自分用じゃないだろうな。彼女のかな。もしかしたら将来のウェデングとかを想定してるのかもしれない。当たり前だけど、可愛い彼女を作って(もしくは既にいて)ゆくゆくは結婚して子どもを授かり家族で幸せに暮らすんだろうな。
そんな大抵の人が手にする当たり前の幸せは自分には一生訪れない。解ってはいるけどやっぱり時折寂しくなってしまう。一生ひとり。自分自身を偽ることは出来ないから仕方ないけど年を重ねるたびに寂しさは増していくんだろう……。
「白い花と言ってもベースに少し色を入れるんだよ。自然界の白で生地みたいに真っ白な色ってほとんどないでしょ?」
ごく薄いキナリ色を入れた花びらに深いグリーンや茶色、時には薄いピンクを入れて自然な雰囲気に仕上げていく。微妙な手加減で行う染色は一番個性が出て一番本人の力量がわかる作業だ。彼の色を入れるタイミングや色選び、分量は絶妙で感覚がいいのがよくわかる。しかも一切の迷いがないから作業も早い。
「紀伊さんは何を作ってるんですか?」
「大きい百合を作ろうかと思ってる。12月にね毎年個展を開くんだ。その準備。この時期、君達学生さんに手伝ってもらって助かってる」
「ど素人がきて本当は邪魔でしょう?」
「この間も言ったけど全然邪魔じゃないよ。手はいくらあっても助かるし、服飾学校の生徒さんだけあってみんな器用だから。その中でも兼子君は特に優秀だよ」
「……どうも」
ぼそっと言った一言だけど絶対喜んでる。可愛いな。なんとなくだけど彼の微妙な感情の起伏がわかるようになってきた。
「はい。手があいたら食べてね」
朝早くから作業してる彼のために紅茶と昨日焼いておいたくるみとクランベリーのマフィンをおいた。さりげなく用意するようにしてるけど彼が朝早く来るようになってから実は毎晩このために何か作っている。まるで付き合っている彼のために朝食を用意しているようですごく楽しかった。
「毎日すみません」
こっちこそおかしな妄想してほんとごめんなさい。
「どうせいつも自分用に作ってるから」
嘘です。自分のためだったらこんなに毎日作ってません。しかもこの追い込み時期に。
「……美味しいです」
うわ。初めて聞いた。めちゃ嬉しい。顔に出しちゃダメだけど。
「よかった。ランチの時にもみんなに出すけど、たくさんあるから良かったら持って帰ってね」
「はい」
すなおーー可愛い。もっと作ってあげたい。
……けど気持ち悪いだろうから、さりげなく、そしてほどほどにしておかないと。
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