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第4話
「兼子君、本当にありがとう」
みんなに1輪ずつ花を送ったけど、彼には初めて会った時から感じているイメージの黒い百合を用意した。男性だしコサージュはつけないかもだから小さなアンティークの箱に入れて渡した。
「少しは役に立ちましたか?」
「もちろん! バイト代払いたいくらいだよ」
「じゃあ、最後にあれ食わせてくれませんか?」
兼子君はストーブの上で煮込んでいるビーフシチューを指差した。
「そんなのでいいの? もちろんいいよ」
パンも焼いてシチューと一緒に渡した。彼の食事する姿も好きだったな。豪快で色っぽくて、残さず綺麗に食べる。
あーー寂しくなるなーー明日からは自分のためだけにご飯を作らなきゃならない。毎年実習生を受け入れているのに今年に限って、こんなに寂しいのは、やっぱり兼子君がいたからだろうな……。
ドン! と大きな音がして窓の外に雷が光るのが見えた。朝からずっと降ってたけど雨足が随分強くなったみたいだ。
「もうちょっと小雨になってから帰った方がいいかもね」
ふいにピピっと兼子君の携帯が鳴った。
「……」
ジッと画面を見たまま動かない。なんかあったのかな?
「紀伊さん。申し訳ないんですけど今晩泊めてもらえませんか?」
「え? どうしたの?」
「青梅線、落雷で止まったみたいです。復旧は早くても明け方になるみたいなんで。迷惑かけてすみませんが、俺ここで寝るんで」
「い、いやダメだよ! こんなとこじゃ風邪ひいちゃう」
古い一軒家を改装して生活スペースと工房に分けていたが、ここはあくまで作業部屋だ。最低限のものしかないし、何より夜は寒い。
「大丈夫。空いてる部屋も客用布団もあるから」
「すみません。ご迷惑をお掛けします」
兼子君は大きく頭を下げた。
「気にしないで。兼子君が悪いんじゃないし、こっちこそ遅くまで引きとめちゃったからごめんね」
兼子君が家に泊まるなんてどきどきする。自然に振る舞わないと。
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