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第5話

 とりあえずお風呂に入ってもらって、その間に部屋着と布団を用意した。あと何すればいいんだろう……ソワソワしてしまう。落ち着かないと。 「すみません。お風呂まで入らせてもらって」 「あったまった?」 「はい」 「まだ食べれそう? 僕ご飯まだだったから軽く作ったんだよね。良かったら」  多分まだまだ食べれるだろうと思って、さっきのシチューを焼いてグラタンにしたものと、サラダとホカッチャを用意しておいた。 「兼子君飲めるの? 良かったらお酒もあるよ」 「紀伊さんは飲むんですか?」 「弱いから少しだけね。あったまるから最近はホットワインを1杯だけ飲んでから寝てる」 「じゃあ俺もそれください」  切ったフルーツに温めた赤ワインを入れてサングリアを作って渡した。ちょっと甘いかな。 「ありがとうございます」  テーブルの向かいに座ってグラスを受け取る彼はまだ濡れたままの髪を無造作に結んでいた。プライベートな彼の姿が新鮮に感じる。 「兼子君はなんでうちの研修選んでくれたの?」  研修を受け入れている会社はたくさんある。アパレルやデパートなど大手も多く、うちより兼子君の専攻に近い業種もあっただろうに。 「ずっと前から決めてたんで」 「そうなんだ。うちの研修に男の子が来てくれるの初めてで嬉しかったよ。お世辞じゃなく兼子君器用で感覚も良くってびっくりした。舞台衣装専攻なんだよね? 作品見てみたいなーー」 「11月に文化祭があるんで、良かったら来てください」 「行く行く。楽しみにしてるよ」  11月? あと一ヶ月しかないのに良く研修延長するって申し出てくれたな。 「やっぱり誰かと食事するのは楽しいね」  兼子君お酒強いんだな。すすめると水みたいに飲んでる。サングリアだけじゃ甘いかもと思って白ワインも出した。いいな。向かい合って他愛のない話をしながら夕食をとる。こんなふうに誰かと暮らせたら楽しいだろうな……。 「いつも一人で食事してるんですか?」 「まあ、基本的にはね。時々友達が来てくれるけど」 「結婚はしてないですよね。彼女は?」 「いないよ」  もしいたとしても彼氏だけど。残念ながらそっちもいない。というか一度もいたことがない。自分でもちょっとドンびく。バレたらかなり気持ち悪いと思われるだろうな。 「紀伊さん可愛いのに」  可愛い? かっこいいとかの聞き間違いかな? 「料理も上手だし」  ああ、まあ料理は趣味だしね。今時男も料理できる方がモテるんだろうな。 「兼子君こそ。彼女は? 連絡しなくて大丈夫なの?」 「いないから大丈夫です」  そうなんだ。ほっとしている自分にちょっと呆れるけど、頭の中でくらい兼子君と一緒にいることを楽しんでもいいよね。  お酒が入っているせいか兼子君はいつもより饒舌だ。照れたようにちょっとだけ笑う表情が可愛い。あーーやっぱ好みだな。見た目も表情も、話し方も、声のトーンも嫌いなところが一つもない。何よりずっと彼からずっと感じる強い香り。どんどん強くなっていく気がして頭がくらくらした。

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