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第8話
「日を改めます」
そう言って兼子君は帰って行った。けどまた来られても僕には謝ることしか出来ないんだけど……。
「ごめんねーー無理して居てもらって」
「別に仕事場までの距離。自分の家からと同じ位だからいいけどーーそれより詳しく聞かせてよーー若い子との初エッチ話」
「……ほとんど覚えてない……」
そう……あれからなんとか記憶を辿って見たけどダメだった。なんかふわふわして気持ち良かった感覚しか覚えてない……。
「うそーー! もったいなーーい!」
しばらくの間、杉守 に来てもらうことにした。彼は僕がゲイだと知っている唯一の友人だ。若い頃自分のジェンダーを確定したくて意を決して飛び込んだ新宿2丁目のゲイバーに勤めていて仲良くなった。今ではそのバーのママをしている。仕事中は女装しててハリウッド女優みたいに美人なんだけど、すっぴんの時は背も高いしマッチョで男前だ。兼子君がまた来た時納得してもらえるように恋人役をお願いした。
「でもびっくりよーー若くてやりたい盛りの頃にあれだけ好きな人じゃなきゃイヤン!って乙女全開で言いよる男たちを薙ぎ倒してきた咲耶がねーー」
「そんなことしてないよ」
自分がゲイであると自覚しても、勇気がなくて誰とも恋人にはなれなかった。だからみんな離れていったけど、杉守だけは性的な関係がなくてもずっと友人でいてくれた。
「おいしーー腕上がったわね〜〜お店に持って行きたいわーー」
言いながらミートローフをバクバク食べている。せめてものお詫びにとタンパク質多めの料理を用意しておいた。
「あら。早速じゃない?」
カランと庭先の扉が開く音がして窓から兼子君の姿が見えた。杉守は嬉しそうに小走りで玄関に向かって行ったけど、大丈夫かな……。
「こんにちは」
「あんたが紀伊さんの彼氏?」
「そうだけど……」
「紀伊さんと話がしたいんだけど」
「咲耶は話したくないってさ」
どうしよう。兼子君すっごい怒ってる。あんな表情見たことない。
「いい? 若くて綺麗な男の子ちゃん。君は俺たちの仲に無理矢理入ってきた間男な訳。これ以上しつこくするなら咲耶の綺麗な顔、誰だかわからなくなるくらいぶん殴るよ」
急に低い声になり杉守が凄んだ。すごい。男全開。水商売でたくさんの修羅場を潜ってるだけある。
「お前! 紀伊さんに何した?」
「してないしてない。まだね。でも君の行動次第ではそういうことも起こりうるわけ」
うわ。どうしよう。兼子君がこっちを見てるけど、目が合わせられない。
「……わかった。帰るから絶対暴力振るうなよ」
「オッケーバイバイ! ハタチの可愛い可愛い兼子君」
手をヒラヒラ振って見送る杉守をすっごい睨んで兼子君は帰って行った。
「辰王 怖い……」
「何引いてんのよーー咲耶のためでしょ〜? あとその名前で呼ばないでよ! カレンって呼んでちょーだい! でも面白かったーー何よーーすっごい、いい男じゃないーー」
「だから困ってる」
「何も困ることないのにーー」
「ダメに決まってる。15も年下なんだよ!」
「ふーーん……ねぇ朝起きたとき怪我してた? 体汚れてた?」
「え、別になんともなかったけど……」
「へえーーそうなのねーーあの子なかなかのもんなんじゃないのーー? 迫られてやりたい衝動であんたに襲いかかったノンケの若い男の子が相手が傷つかないように気をつかってセックスしたり、事後に男の体を綺麗にしたりなんて出来るわけないわよ」
そう……なのか? っていうか体を綺麗に……って泥酔して真っ裸の自分をってことだよね………あーーーーなんか気が遠くなってきた……そんなことを兼子君にやらせてしまっていたなんて……でもそうなんだろうな……体、全然汚れてなかったし……。
「あんたの体、隅々まで眺めながら精液を綺麗にふきふきしてくれたんじゃないのーー?」
「わーーーーもうむりーーーー辰王黙って!!」
最悪! ほんと最悪! ごめん! 兼子君本当にごめん! これ以上聞いてられない! 思わず耳を塞いだ。
「ちょっとーー! カレンちゃんでしょーー全くほんとお花畑の王子様よねーーお似合いなんじゃないのーーあんたの頭ん中あの子よりずっとおぼこいわよーー」
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