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第10話
僕は、いつものようにあの小部屋で服を脱いで準備をしていた。だけど、今日は、いつもと違っていた。
兄が見ている前で、沢村に抱かれるのだ。
僕の胸は、早鐘を打っていた。
子供の頃から、一緒だった、もう一人の僕の前で、沢村に抱かれる。
それは、僕の真の幼年期の終わりと言える出来事だ。
僕は、今まで、兄に依存していたのかもしれない。兄は、兄だということのためだけで、僕の保護者として生きてきた。僕も、兄に養われることを受け入れていた。それが、僕たち兄弟だった。
だけど、いろんな誤解から、僕は、兄の代わりに男優になった。それは、辛いことでもあったのだけど、それだけじゃなかった。
わかりあえるスタッフの皆や、気のいい社長と出会えた。何よりここで、僕は、恋に落ちたのだ。
沢村は、僕の閉じられた心を開いてくれた。
僕は、沢村の手で生まれ変わったのだ。
そして、今日。
僕は、新たな世界へと、旅立つ。
兄を解放し、僕たちは、本当の僕たちになるのだ。
「準備は、いいか?」
ドアが開いて現れた沢村が、僕に手を伸ばして言った。
僕は、頷いた。
僕は、いける。
僕は、沢村の手を取り、歩き出した。
撮影機材の中央に立った僕は、周りを見渡した。ライトの向こうに兄の影が見えた。僕は、裸で一人、ライトの中に立っていた。
始まる。
僕は、沢村を見た。
沢村は、僕に、優しく微笑みかけた。
僕は、すぅっと深呼吸をした。
「お願いします」
僕は、その場にひざまづいた。改発が赤い麻縄を手に歩みよってきた。
「それじゃ、いくで、ハルちゃん」
改発の縄は、こんなときでも迷いがなかった。それは、僕を確実に縛り上げていく。ぎゅっと縛られて、動きがとれなくなっていくにつれて僕は、自由になっていく。
解放されていく。
改発が、僕に、囁いた。
「きれいやで、ハルちゃん。ホンマに、あんたは、きれいや」
改発は、縄尻を天井からぶら下げられたフックへとかけて、僕を吊り上げた。縄に締め付けられて僕は、思わず、呻いた。
「んっ・・」
つられた僕の腰に縄をかけて改発は、僕の腰を高く上げた格好で僕を固定した。改発は、僕の尻をぴしゃんと叩くと言った。
「ほなら、気張りや、ハルちゃん」
「ぁんっ・・」
「沢村、入ります」
沢村が、裸で僕の前に立った。
「よろしく、ハルちゃん」
「あっ・・沢村、さん・・」
僕は、欲情で潤んだ瞳で彼を見上げた。彼のものは、すでに、屹立していた。彼は、僕の目の前に立ち、そそり立った昂りを僕の口に含ませて、僕の喉の奥まで貫いた。僕は、苦しさに呻き声を漏らした。
「うっ・・んぐぅっ・・」
沢村は、僕の口の中で抽挿を繰り返した。それは、僕の喉の奥まで犯していた。僕は、唾液を垂らしながら、必死で沢村のものを咥えていた。
「出すぞ、ハルちゃん」
「んぅっ・・」
沢村は、僕の口から自分自身を抜き去ると僕の顔面に向かって、迸りを放った。頬を滴る彼の精を僕は、ぺろりと舐めた。沢村が嬉しそうに笑った。
「ハルちゃん、すげぇ、淫乱っぷりだな。顔射されて、立たせてるなんてな」
「あっ・・」
僕は、恥ずかしさに顔が熱を持つのを感じた。沢村が、囁いた。
「ハルちゃん、エロすぎ。もう、堪らないな」
「ふぅっ・・んぁっ・・」
沢村が、指を僕の口の中へ入れて、舌を摘まんでぎゅっと引っ張った。僕は、唾液をだらだらと垂らして、呻いた。
「んんっ・・」
沢村が僕の舌を離した。僕は、彼の離れていく指を舌で追って、舐めしゃぶった。くちゅくちゅと淫音を立てて、僕は、沢村の指を吸った。
沢村が、僕の後ろに回って、僕の尻を押し開いた。彼は、僕のすぼまりにローションを塗り込めるとそこに彼自身をあてがって、僕に言った。
「いくぞ、ハルちゃん」
「んぁあっ!」
沢村は、僕のそこへと自身をねじ込んだ。凄まじい圧迫感と、異物感が僕を襲う。そして、快楽が。僕は、沢村に貫かれて、その喜びに体を震わせて、声を上げた。
「あぁっ・・んぁっ・・だめぇっ・・そんなに、深く、突いちゃ、いやぁっ!」
腰をくねらせて、よがり声を上げる僕を見て、兄が顔を背けるのが見えた。
「だめぇっ!見て、兄さん、僕を、見てぇっ!」
「晴」
僕は、沢村に突き上げられ、前を立たせて、喘いだ。僕の前は、先走りに濡れていた。沢村は、身を捩って感じている僕の腰を強く掴んで腰を動かして、僕を突き続けた。僕は、何も考えられなくなっていって、ただ、喘ぎ、狂い哭いた。
「ハル、一緒に、いけ!」
「あぁあっあっ!だめぇっ、も、いっちゃう!いくぅっ!」
撮影が終わって僕が縛られていた縄を沢村に解かれて、その場にくず折れたのに、兄は、駆け寄ってきて、僕を抱き締めた。
「晴・・・」
「兄さん・・」
兄は、僕を黙って、抱いていた。
やがて、兄が僕を離すと、すかさず、沢村が、僕の体に毛布をかけて、抱き上げた。沢村は、その場に座り込んでいる兄に言った。
「晴にシャワーを使わせてきます」
僕を抱いて兄に背を向けた沢村に、兄が呼び掛けた。
「あの」
振り向いた沢村に、兄は、言った。
「晴を・・弟を、よろしくお願いします」
沢村は、にっこりと笑って言った。
「もちろんです」
沢村は、僕を隣の事務所のバスルームへと連れていくと、そっと、バスタブへと下ろした。僕は、沢村の手を掴んで立つと、沢村を見上げて、言った。
「沢村、さん・・」
「よく、がんばったな、晴」
「沢村さ」
「レイ、だ」
沢村が、僕を見つめて言った。
僕は、躊躇いがちに、その名を呼んだ。
「レイ・・」
僕は、その名を繰り返し呼んでいた。
「レイ!」
「晴」
僕は、沢村の腕の中で静かに、泣いた。それは、僕の、過去への惜別の涙だった。
兄と二人きりで、生きてきた日々への別れに、僕は、涙を流していた。
僕は、もう、兄とは違う存在だった。
本当は、最初から、僕たちは、異なる存在だったのだ。それを、僕たちは、寂しさのあまり、気づかないふりをしていたのだ。
もう、僕たちは、もとには、戻れない。
今日は、僕たちの第二の誕生日だった。
今日、僕たち兄弟は、新たに産声を上げたのだ。
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