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War5:Encounter③
なぜだかすぐ思い出せない。他の子はすらすら出てきたのにどうして。そんな事を考えながらしばらく見ていると彼がこちらを見て、バッチリ目が合う。
あっ、……咄嗟に目を逸らしてしまった。思い出そうと目力を入れて見つめすぎたかも。
彼は視線をまたカメラの方へ向けて撮影を続ける。……目があったのは勘違いかな??
あっ!そうだ思い出した!確か名前は。
栗栖 奏 17歳 高校生
情報としては、、それだけだったかな。他の子のように何かをしていたわけでもなく普通に学生生活を送っていたであろう男の子。
まぁグループに一人は必ずどうやってグループに加入したんだろうみたいなそんな子はいる。
若いのに少し色気を感じる、彼は見ていた資料写真よりも随分と雰囲気が違った。まだまだ幼さや素人の雰囲気はあるけれど、きっと彼はすぐ化ける。何となくそんな予感がした。
業界人としてなのかはたまた元アイドルの直感かは分からないが。
《お疲れ様でした!》
メンバーの挨拶が聞こえて撮影が終わった事に気づいた。那奈が辺りをを見回してキョロキョロと誰かを探してる様だ。
「大庭さん。すいません、戸川さんは?」
『あぁ、戸川さんなら途中で帰りましたよ。あの人忙しい人だから。いつも同じ現場にずっといない人ですよ』
「そうなんですね。私マネージャーとか初めてで色々不安で……だから色々と教えて下さい!」
那奈もまた新人のアイドルのような初々しさだ。
『僕も女優の子のマネージャーしてたくらいでグループはやった事ないですが是非これからお願いします。あっこれ僕の名刺です」
名刺を渡しながらちょっと業界人ぶってカッコつけて言ってみたりした。
『じゃ僕もまだ仕事残ってるのでこれで帰りますね。ありがとうございました』
タクシーに乗り込んで会社に向かう。久しぶりに間近でみたアイドルグループにちょっとした興奮も抱きワクワクした気分。
……っておかしいかな?男なのに。始めはあまり気が乗らなかったけどDeeperZちょっと楽しみになってきたな。
◆◇◆◇◆◇
「みんな今日はお疲れ様。すごくいい写真になったと思うから楽しみね。」
撮影帰りのバスの中、前の座席から振り返って那奈がみんなに言った。
「はい。すごく楽しみです。」
リーダーの光が爽やかに返事をした。
「カメラマンさんもみんな褒めてたから頑張らなきゃね。疲れたと思うから少し車内でやすんで」
そう言って那奈は前を向いてスケジュール帳を開く。
「なぁ。卓士、お菓子ちょうだい!」
「えっやだ」
「何でー?いっぱいカバンに入ってるの知ってんだからな」
「これは勉強の時に脳を活性化させる為に必要なお菓子で凌太にあげる為じゃない!」
「難しい事言うな。ちょっとくらいいいだろ」
移動の車内のいつもの光景。
おしゃべりな凌太が卓士に絡んで疲れ知らない同い年コンビ。
そんな2人を"やれやれ"と言った顔で見ている朋希。リーダーの光はスマホでサッカーの試合中継に夢中。周りを一切気にせずイヤホンから流れる音楽に乗って体を揺らす旬。まさに六者六様だ。
「あのー…日高さん」
窓際で那奈の後ろの席に座っていた奏が横から顔を出して言った。"ん?"と那奈はスケジュール帳と睨めっこしながら耳だけ傾ける。
「あの、今日来た事務所の男の人……」
「男の人?んーっと、、大庭さん?」
「はい、あの人って事務所の俺たちの担当者ですよね?……それだけですか?」
那奈はスケジュール帳から目を奏に向けた。
「それだけってどうゆうこと?」
「いやその、どこかで会った事がある気がして。勘違いかもなんですけど…気になって。」
「んー今の事務所で働いてる人なだけで、私も今日初めて会ったからよく知らないのよ」
「そうですよね、、変なこと聞いてすいません」
「でもすごく優しい人だと思うし、男同士の相談とかあればすれば良いと思うよ。私みたいに毎日付き添うわけじゃないけど面倒見てくれるから」
「……はい。ありがとうございます」
"きっと勘違いだろう"
奏は揺れる車内の窓から外を見ながら目を閉じた。
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