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War6:Encounter④
12月中旬 。街がクリスマスカラーに染まっていく。冬休みが間近に迫り浮き足立ってる人達を尻目に仕事は多忙を極めていた。さほど遠くはない会社への通勤ラッシュの電車。慣れたとはいえこの疲れた体には堪 える。
「ねぇねぇ、見たー?DeeperZの写真上がってたよね!」
「見た見た!かっこよかったー!」
「やっぱり凌太かっこいいよね」
車内で聞き慣れた名前に反応してしまった。女子高生達がスマホを手に騒いでいたけども聞き間違えじゃなければもしかして……
"D e e p e r Z"
スマホに一文字ずつ入力していく。すぐに出てきたアー写はもちろん彼らと初めて会ったあの日に撮った写真。ビシッと決まったグループ写真と個人写真が出ていた。
"何故もう知ってるんだろう?"とも思ったがデビュー前から芸能活動しているメンバーもいるせいか思った以上に若い子達の情報が回るスピードは早かった。
僕のアイドル時代と今は違う。SNSで簡単に写真は見れるしスマホで音楽も聴ける。
それゆえにアイドルとファンとの距離も近い。それがいいか悪いかはひとまず置いといて。
「あっ、この子もかっこよくない?」
「17歳って私たち同い年じゃん!」
「え〜推しちゃおっかなー」
「ちょっと!凌太がいるじゃんダメ〜!」
「もうすぐデビューかぁ〜楽しみ」
降りる駅に着いたが楽しそうな女子高生を見てるうちに扉が閉まりかけた。"あっ!"急いで席を立って挟まる寸前で何とか電車を降りる。
うちの事務所・マックスエンターテイメントは所属している人数はさほど多くないがそれなりに顔が知られて活躍している子も在籍している。
昨今にわかに注目されてる事務所には間違いなかった。ここでDeeperZを成功させる事は事務所の今後にも大きく影響するだろう。
「おはようございます!」
『あれ?日高さん、どうしたんですか??』
「戸川さんに用事があって来ました」
『えっと、あっ!戸川さんならあっちに』
奥の部屋を指さして言った。マネージャーは現場にいる事が多い為、事務所内で顔を合わすのはそう多くない。
「ありがとうございます。あっそうだ、お昼頃時間あったりします?」
『あー…この業務終われば大丈夫ですけど?』
「昼からDeeperZがスタジオで練習なんですけど良ければ来ませんか?」
そういえばアー写撮影以来、彼らには会っていない。他の仕事に追われてるうちにデビュー日も徐々に近づいていた。それは担当者としてそれはあまりよろしくない。
『えぇ、いいですね。是非行きます』
「ではまたその時に来ますね」
そしてパソコンを打ち込むスピードを早めた。
キリがいいところで事務所を出て二人でレッスンスタジオに車で向かう。車で10分程の距離にある5階建てのビルの中にスタジオはある。千遥と那奈がエレベーターを降りるとレッスン中の漏れた音楽が聞こえてきた。
『わぁ。ここは初めて入りました。確か今年初めにスタジオ新しくなったんですよね?』
「そうなんですよね。事務所からも近いですし広くてメンバーも喜んでます。それまで狭いスタジオだったみたいだから。あと、すいません!わざわざ社用車だしてもらって」
『いえ、僕もデスク作業ばかりだと息が詰まるし気分展開したかったし』
2人は長い廊下を歩きながら話していると部屋から慌てて出てきた誰かにぶつかりそうになった。
「うわっ!す、すいません!……あれ?日高さん。あっ大庭さんも!」
『あっ!光くん、こんにちは』
「もしかして練習見に来てくれたんですか?」
『そう。まだみんなの歌とダンス見てなかったからイチお客さんとして見にきたよ」
「ありがとうございます。Cスタジオにみんないますよ」
「ところで焦ってどうしたの?」
「あっ、、トイレ!トイレ!」
光は走ってトイレに駆け込んだ。それを見て顔を見合わせて笑う千遥と那奈。
Cスタジオの扉を開ける。床を蹴る靴のキュッキュッ音が音楽に包まれてスタジオ全体の熱気を更に上げていた。
事前に彼らのデビュー曲を聴いてはいたもののやはり生のダンスと歌に見入ってしまった。
曲が終わると無意識のうちに大きく拍手をしていた。"パチパチパチ"のその音でみんなが振り返った。
「あー!大庭さん。スタジオ来るなんて珍しいですね。初めてですよね」
凌太がそう言って近づくとみんなとゾロゾロとそれに続く。
《お疲れ様です!》
『みんなもうすぐデビューだけど準備は万端みたいだね。初めてダンス見させてもらったけどすごいね!思わず拍手しちゃったよ』
「そうだ。大庭さんから差し入れあるわよ。ちょっと休憩してみんなで食べようか」
千遥が買ってきたスイーツの箱をテーブルに置く那奈。スイーツを見て一番目を光らせたのは卓士。
「卓士、全部食べんなよ」
いつもの凌太と卓士の小競り合いが始まる。
「俺、ダイエット中だけど今日はいっか。」
そう言って選び始めた朋希。さすがモデルもこなす彼はスタイルキープの鬼だ。
「あれ?光は?」
『さっき、トイレって出て行ったけど。』
「じゃ光のもーらいっ!」
みんなニコニコしながらどんどん口の中に消えていく。"ありがとうございます"とか"おいしい〜"なんて言われたら可愛いやつらだなっと歳の離れた弟が6人出来たようで気分は悪くはない。
テーブルから少し離れた場所でもくもくと真顔で食べている彼が目についた。
『あっ……奏くん、もしかしてあまり好きじゃなかったかな?』
「いえ、そんな事ないです」
『ならよかった』
何となく気になって質問したけどその一言で会話は終わってしまった。そういえば彼の笑顔だけまだ見た事ないな……
それから再び練習に戻るメンバー。千遥はスマホを横にして踊る6人を撮り続ける。
息のあったダンスにいつかの自分と重ね合わせながら時間も忘れて夢中に録画の赤いランプがしばらく消える事はなかった。
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