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War7:Encounter⑤

 さすが若いだけあってほぼノンストップでダンス練習は続く。ダンスの先生と旬が仕切って完璧な形に仕上げていく。気がつけば時計は22時に回っていた。デビューまでもう数える程に迫って、ダンスレッスンにも相当気合が入っていた。  「奏、今日は終わりー!」 時計を見ながら那奈が大声言うとダンスの輪から抜け、ハァハァと息を切らしながらタオルで汗を拭き水を一気に飲んだ奏。  『あれ、、、?』  「あー、奏は17歳なんで22時で終わりです」  『そっか』  高校生の労働には厳しい規定があり、それは芸能界も例外ではない。そういえば自分もあの頃そうゆう時間の縛りがあったななんて思い出した。そっか同じ17才だったんだ。    汗だくのTシャツ姿だった彼が更衣室から出てきた時にはブレザーの制服姿に変わっていた。まだ少し額に汗が残る彼に一瞬目を奪われた。アイドルから普通の高校生に戻った瞬間だ。 那奈のスマホが鳴ってスタジオの外に出て何やら話し込みはじめた。  「奏ごめん。運転手さんもう帰ったみたい、どうする?」 戻ってくると那奈はそう奏に伝えた。  「それなら電車で帰るから大丈夫ですよ」  「でも遠いし……心配だな…」  「大丈夫です」 息子を心配する母親のような目で言う那奈。そんな二人のやりとりを見ていた千遥。  『あの、良ければ僕が送りますよ。ちょうど社用車で来てるし僕もそろそろ事務所戻らないとだし』  「いやそれは申し訳ないですよ!」  『今日みんなと話せて楽しかったし担当者としてみんなの面倒を見るのは仕事なので」  また良いところを見せようとしている?いや事務所に戻るついでなだけ。それとも他に理由がある?いや、そんなものはないはず。  「じゃぁお願いしようかな。奏いい?」  「……はい、お願いします」  メンバーみんなに挨拶し荷物を持ってスタジオを後にした。千遥の後ろについて歩く奏。6階から駐車場まで特にこれと言った会話はなくただ一定の距離で歩く。 家まで送るとは言ったものの|幸先《さいさき》が不安だな。  スタジオとの温度差に体を縮こませながら駐車場に着く。  『今日は一段と寒いね。車はあっちだよ』 指をさして声をかける千遥に軽く頷くだけの奏。  ポケットからキーを出して運転席のドアを開けて助手席側ドアの前に立っている奏に言った。  『どうぞ、さっ入って』  「はい。失礼します。」  入るなりエアコンをつけてシートベルトをした。それを見て奏も真似するようにシートベルトを装着する。  『で、家はどこら辺かな?』    奏の家までは車で一時間程。場所を聞くとエンジンをかけて車を走らせた。夜の都会のネオンが曇ったガラスで薄ら見えるだけ。千遥はカーナビと奏を交互にチラチラと見ながら言った。  『……遠い場所から来てるんだね。大変でしょ?』  「いえ、そんな事ないです。もう慣れました」  『制服似合うね。学校と仕事の両立は大変だよね?』  「いえ、そんな事ないです」  またその返事だ。彼の返事はいつも一文で簡潔で感情が読めない。グループの中で一番謎が多い子だけどますます謎が深まる。彼知ろうとすればするほど分からなくなる。  車を走らせて40分程過ぎた。しばらく沈黙状態が続く。奏はずっと窓から外を見たままだ。千遥は会話の話題を探して頭をフル回転させた。  『えっと……奏くんはどうしてアイドルになろうと思ったのかな?』  違う!こんな会社の面接みたいな質問したいわけじゃない。だけど沈黙が耐えられず咄嗟に出てしまった言葉がこれだった。    「それは担当者としての質問ですか?それとも個人的な興味?」  まさかそんな返事がくるとは思わなかった。深く考えず発した言葉の返事にしては意表(いひょう)を突いていたから言葉につまる。  『えっとー…それは担当者としてはやっぱりメンバーみんなの事は色々知っておくのは大切な事だし』  「じゃぁここに違うメンバーが座っていても同じ質問しました?」  隣に座る奏の目線が突き刺さるようで痛い。千遥は見てられずハンドルを強く握って前だけを見て答えた。  『うん……まあ、、、そうだね。』  「じゃぁ答えません」  それから再び沈黙が続いている。時々エアコンの設定をいじったりしながら何とかこの思い空気を打破するタイミングを伺っている千遥。  「スマホ貸して下さい」  『えっどうして!?』  突然口を開いた奏の急な問いかけに口吃(くちども)りながら言った。ダッシュボードに置いていたスマホを取って自分のスマホに打ち込む奏。  『あっ、ちょっと!何?』  「いざと言う時の緊急連絡先です」

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