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War10:Encounter⑧
それからもう一着も試着することになって。
着せ替え人形みたいにみんなに遊ばれたけど"まだまだイケる"とか囃 立てるもんだから調子に乗った自分もいる。
男だって若くみられたら嬉しいし、一応元アイドルのプライドだってある……のかな?
ミーティングが終わり片付けをしているとメンバーと部屋を出て行った那奈が一人で戻ってきた。
「大庭さんお疲れ様でした!」
『お疲れ様です。あれ、みんなは?』
「イベントのリハーサルがあるからスタジオに行きました。奏の代役ありがとうございました!」
『あっいや、なんか楽しかったですよ。奏くんの代わりになれたかは分からないけどね』
「十分なれてましたよ!あっ、それと昨日は大丈夫でした?」
『昨日……?あー、奏くん?』
「はい、急に送りを頼んでしまったから……」
『別に気にしないで下さい。家までしっかり送り届けましたから』
那奈が少し不思議そうな顔をして3秒くらい間を置いて言った。
「えっ、、、家まで?」
『はい。家まで送りましたけど……どうしました?』
「あー…いつも最寄りの駅で降ろすので、家まで行くのは珍しいなって。なぜか分からないけど家まで行くのは嫌がるんですよ」
そんな事はない。昨日はそんな嫌がるような素振りなんて1ミリも感じなかったしピッタリと家の前で降ろしてお礼だって言っていたけど。
『そうなんですか……まぁ僕は彼とゆっくり会話が出来たので嬉しかったですよ』
「それなら良かったですけど」
その件が多少気になったが彼の行動はそもそもよく分からないから深く考えない方がいい。昨日の夜はかなり冷え込んでいたし、駅から歩くのがツラいからとかそんなノリだろう。
そして自分のデスクに戻ると携帯にメッセージが来ていた。立ったまま開いて確認した。
"事務所の近くにいるけど出てこれる?"
時間を見るとついさっき来たばかりのメッセージで数分前。送り主は久しぶりに見る名前でちょっと意外だったがすぐに返信した。
"どうしたんだよ?"
"近くでロケしてるから会えるかなって"
"やだ"
"いいから来い!!"
怒りのスタンプが連続で届いて最後にハートマークが押された。"仕方ないなぁ"なんて呟きながら何故か自然に笑みが溢れる。そしてコートを羽織ってスマホと財布をポケットに入れた。
『ちょっと一時間程出てきます!』
事務所から歩いて5分の場所にある待ち合わせたカフェはそれなりに広い店内で席も埋まっていた。入って辺りを見回すと数人の女子に囲まれて頭一つ突き出た男の姿が見える。あいつを見つけるのは楽なもんだ。
「サインもらえますか!?」
「あの〜握手して下さい!!」
キャッキャッとピンクのオーラが出てるあの中に入る勇気なんてあるわけない。ゆっくり近づいて一定の距離から様子を伺う。
すると輪の中心の男がこちらに気付いてバチっと目が合った。そしてファンサービスをもらった女子達は満足そうに自分の席へ戻っていった。
「来たな。久しぶり、千遥」
『いやぁ、ホント探す手間が省けてありがたいねー』
「皮肉を言えるくらい元気そうで良かったよ!よければサイン書こうか?」
皮肉を皮肉で返したこのキラキラした男は人気俳優の片桐 隼斗
何を隠そうアイドル時代に同じグループで一緒に活動していた元メンバーだ。隼斗の周りにはいつも人がいた、その光景は今もあの頃も変わってないな。
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