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War11:Encounter⑨
"お待たせしました。ブラックコーヒーとココアです"
運んできた女性店員も隼斗の存在に気づいているのかテーブルにコップを置きながらチラチラと目線を送って緊張気味に去って言った。
「千遥、相変わらずココア好きなんだな」
『まぁね、あの頃から舌も変わってないから
ブラックコーヒーなんて大人なものは飲めません』
「別にブラック飲めたら大人って訳じゃないよ」
『それより大丈夫なの?こんな人目着く場所で』
「メンバーとの久々の再会くらい自由にしたいじゃん。マネージャーさんすぐそこにいるし。今日は待ち時間長いから近くなら離れても大丈夫」
うちの事務所は中堅ながらも都心の立地のいい場所であって、近くでドラマのロケや撮影スタジオもいくつかある。うちの女優、タレント達も御用達だ。
『そう。あっ活躍はいつも観させてもらってますよー!売・れ・っ・子さん!』
「それはそれは、おかげさまで」
顔を近づけて千遥と隼斗は笑い合った。二人の仲には時間なんて関係ない。しばらく会わなくてもお互いの事は手に取るように分かる。
隼斗は完璧な男だった。キレイな顔して高身長。そのくせ、歌やダンスのセンスも抜群で優しくて面白くて気が利いて努力家でいい挙げればキリがない。誰からも愛される人ってこうゆう事なんだって初めて感じた。
グループ活動していた時だって人気NO.1はもちろん隼斗。嫉妬する要素もない。だって誰もが好きになる。
解散後もすぐに他事務所から声がかかり俳優として歩きはじめた隼斗は、演技のセンスも光りそれ以降多くの作品に出演し昨今は主演映画も立て続けに公開。
一緒にアイドルやってたなんて嘘のよう。
連絡はたまにしていたものの会うのは一年ぶりくらい。忙しい彼から誘いは特に珍しい。それからしばらく隼斗の出演映画などの話で盛り上がっていた。
「それで俺の話はいいとして、千遥はどうなの?」
『どうってこっちは何も変わんないよ』
「そうそう、戸川さんに聞いたけど新しいアイドルグループ担当してるんだって?」
『……戸川さん、、すぐ喋るんだから。うんそう!来週デビューだから今すごい大変な時期なんだよ』
「そっか。来週って、、もしかしてクリスマスとか?」
『うん。それでさっきまでデビューイベントの打ち合わせで代役としてキラキラのアイドル衣装着せられたんだから』
"ハッハッハッ"と隼斗が大きな声で突然笑ったカフェ内に声が響く。ただでさえ目立つ隼斗への周囲の視線は更に増えた。
『ちょっと!笑い過ぎじゃない?』
「ごめんごめん!想像すると可笑 しくて!」
『変な想像するなよー』
「まぁ元アイドルとしてはその子達の気持ちや行動も理解できると思って千遥を選んだんじゃん。千遥も少しは嬉しかったんじゃない?なんとなくあの時の自分と重ね合わせて、時間が戻ったような気持ちになれてさ」
千遥は隼斗の目をじーっと穴が開くほど見つめ、顔に手を当てて肌を触って体を引いた。
「えっ、何?何か付いてる?」
『はぁ。ホント隼斗には全部見透かされてるなぁ、、悔しいほどに』
「なんだ、、そう!俺は超能力者だから!」
『うるさい。でも、、不安もある』
「何で?」
『だってアイドルやりきれなかった自分がこれから夢いっぱいの若い子達を育てていけるのかな、、とかさ』
その言葉にコーヒー飲む手が止まってお皿にコップ置いた隼斗。
「違うよ。千遥が育てなくもその子達は勝手に成長していく。アイドルは身も心も削りながら夢を与える仕事。千遥の役目は表向きのサポートじゃなくて彼らの削れた部分を修復するのが仕事でしょ』
『えっ……』
ハッとさせられた。自分がこれまで考えていたのは何だったのか。妙に納得されられた心はむず痒いようななんとも言えない気持ちなのに真を突かれた衝撃もあった。
「千遥ならそれが出来ると思うよ」
あまりに直球な言葉に何も言えなくてただ隼斗の目を見ている千遥。すると隼斗のスマホが鳴った。
「隼斗くん、そろそろ撮影再開だよ」
「分かりました行きます」
マネージャーからの電話で呼ばれた隼斗は上着と帽子を手にして電話を切った。
「戻んないと!千遥、また連絡するわ」
立ち上がって伝票のプレートを持って出て行こうとする隼斗の手を掴んだ。
『いいよ、ここは僕の奢り!講義代!』
「なんだよそれ。分かった、ありがとう」
伝票を千遥に渡して店を出て行った。カフェのガラス越しから隼斗が手を上げて合図する。手を払って"早く行けっ"の動きをすると笑って帽子を深く被った。
隼斗の姿が消えるまで外見ていた千遥の心は重荷がおりたように軽くなっていた。
隼斗に勝てないとはこうゆうこと。千遥はお皿に残ったココアを飲み干してカフェを後にした。
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