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War12:Encounter⑩

 それから2日、3日……4日と過ぎる時間。気がつくと12月23日。デビューまであと2日と目前に迫っていた。  今日は実際の会場でのゲネプロ。いわゆる本番さながらに初めから終わりまでの通しリハーサル。学校がある奏以外のDeeperZメンバーは明後日初めて立つイベント会場へと初めて足を踏み入れた。  メンバーも初めてのステージにそこは3,000人程が入る会場。会場としてはそこまで大きなわけではないけれど、今のメンバーにとっては充分過ぎる場所でデビューへの実感もひとしおだ。スタッフ全員もいつも以上に気合いが入る。  「もう一度頭からいきまーす!」  順調に進んで行くリハーサル。歌やダンスだけじゃなく挨拶からトークなど、照明さんや音響さんスタッフ全員と連携しながら完成に近づけていく。  その様子を客席から千遥と那奈は少し離れた場所から見ていた。  『なんかいよいよって感じがしますね!』  「私もなんだか緊張してきちゃいました。なんだか泣いちゃいそう……」  『ちょっと日高さん。泣くには早いですって!成功してから泣きましょう』  「そうですよね、すいません!」  気付けば彼女のマネージャー姿も板についてきた。初めは彼らと同じようにひよっこマネージャーだった彼女も成長した人の一人だろう。そんな事を考えながら潤んだ目を拭う彼女の横顔を見ていた。    突然の着信の振動をポケットに感じて表示された名前を見てすぐに電話に出た千遥。  『もしもし?えっ……分かった。すぐ行くよ』  「大庭さん、どうしたんですか?」  『ちょっと迎えに行ってきます!』  「えっ?あっ、、ちょっと!」  走って会場から出て行く千遥を見届けた那奈は訳もわからずその場にいるしかなかった。  社用車を走らせて着いたのは都内の高校。 階段を駆け上がり乱れた呼吸を整えながら言われた通りの教室に入った千遥。  『失礼します!』  会釈をして目線を前に向ける奏と担任の教師と思われる男性の二人きり。なんとなくの漂う教室内の雰囲気が重くて緊張感で唾をのんだ。  「あっ栗栖くんの家族方ですか?」  『いえ家族じゃ……』  「兄です」  千遥の言葉を遮るように奏が言った。"兄?"顔にハテナの文字が見えてしまうくらい露骨な表情をしてしまった……がとりあえず兄として話を合わせるしかないか。    「あっ、お兄さんね。突然ごめんなさいね」  『あのー…何があったんでしょうか?』 担任に問いかけながら近づいて奏の隣の空いた椅子にゆっくり腰掛けた。  「クラスメイトとの殴りあいの喧嘩ですよ」  『喧嘩?』 奏に目を向けると痛々しい傷やあアザがまた顔を歪ませる千遥。奏はバツが悪い表情を見せて一瞬目があったと思ったらすぐに逸らした。  「相手の子達に話を聞くと話している最中、栗栖くんが急に殴りかかってきたって言ってましてね。幸い早めに周りの子達が気付いて止めに入ったからお互い軽傷で済んでよかったですけ。」  『……そうなんですか。何だかすいませんでした』  「まぁ栗栖くんも普段そんな事しない子だから、ちょっと気になってまして。家庭で何かあったりしました?」  『……いや家では特に何もないかと……あっ多分テスト疲れでイライラしてたりとかかな?』 奏を見ても視線を合わせず俯いたまま黙っている。  「まぁ高校生の男の子だから喧嘩の一つや二つあるでしょうけど、とりあえず冬休みも始まるし休み中の行動には気をつけて下さい」  『はい。申し訳ありませんでした』  担任に頭を下げて二人は教室を出た。 一定の距離を保ったままどちらも口を開かないまま歩く。冷たさが靴をすり抜けて体にも感じられるほど冷え切っている廊下をコツコツと靴音だけが聞こえた。  駐車場に着くとすぐ運転席に乗った千遥とは対象にに躊躇ってなかなか乗ろうとしない奏を見かねて、車内から助手席のドアを開けた千遥。  「ほらみんな待ってるから早く」  反省している顔か、もしくは怒られるのを覚悟した顔か分からない奏の表情。助手席に乗った奏がシートベルトをするのを確認して、エンジンをかけようと千遥がキーを差し込んだ瞬間蚊の鳴くような声が隣から聞こえた。  「……ごめんなさい」  先に沈黙を破ったのは奏だった。千遥は差し込んだキーをそのままに溜め息を漏らして両手をハンドルに置いた。

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