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War13:Encounter⑪
彼に言いたい事は山ほどある。だけど何から言えばいいか頭の中を整理するのに時間がかかって不穏なムードに拍車 をかけている。
「もう喧嘩なんかしません、迷惑かけ……」
『何で!?』
「えっ……えっとそれはクラスメイトが」
『じゃなくて!何で僕に電話をしたの?』
奏の言葉を遮って強い口調で言ってしまう。喧嘩の理由じゃなく千遥を呼んだ事への質問に顔を歪める奏。
『こうゆう時は普通、両親に連絡するはずだよね?何で僕に?兄だなんて嘘までついて』
「……親は来ません。俺が何しようが興味ないんです。勉強してるかだけが大事なので、この手の呼び出しに仕事抜け出してまで来る人じゃないので」
『だからって、、僕は君の担当者だけど保護者じゃないよ』
「……ですよね」
"君"だなんて他人行儀 な言い方してしまった。そもそも怒っている理由が自分でも分からなくなっていて、これじゃただ一方的にイジメている最低な奴だ。17歳の子を相手に恥ずかしい。そんな自分に嫌気がさして冷静さを戻そうと小さく深呼吸する。
「担任に保護者を呼べって言われた時、なぜか千遥さんしか頭に浮かんで来なかったんです。本当ににごめんなさい。」
『……まぁ終わったことだからもうそれはいいけど、顔の傷は大丈夫?他に怪我は?』
「……他は特になんともないです」
『それでその顔で明後日のデビューイベントでるつもり?』
まだ赤々と残った血が痛々しい顔の傷に手を当てて事の重大さに気付いた奏。人前に出る仕事、そして大事なこの時期に馬鹿な事をしてしまったと後悔した。
「自覚が足りなかったです……」
『じゃとりあえず手当しないと。その腫れたままの顔じゃすぐにリハーサル行けないだろうしせめて腫れが引くまでね』
そう言ってエンジンをかけて動き出す車に
「えっ、病院ですか?大丈夫です、病院なんて行かなくてすぐ治ります」
『いや、実は僕の家がここから10分くらいの場所なんだ。最低限の薬くらいあるから』
一瞬何を言ったか理解するのに時間がかかってしまってワンテンポ遅れて聞き返した奏。
「んー…えっ!家?今から千遥さんの家に行くって事ですか?」
『うん。まさか奏くんの学校がこんなに近くとは知らなかったよ。すぐだから、その方が手当てしてリハーサルも早く行けるでしょ』
「……まぁ千遥さんが大丈夫から行きます」
小さく返事したけど顔は嬉しそうな奏は口元の傷を触る振りして誤魔化した。
『ん?何で笑ってるの?』
「いや、別に笑ってないですよ」
顔を窓の方に背けた。初めて見た千遥の怒った表情も奏の頭の中の千遥ページに追加されて嬉しかった。まさか家に行く事になるなんて想定外だが、嫌われたわけではないと安心して助手席に体を預けた。
"もっと千遥さんを見たいし知りたい"
奏の心はそれだけでいっぱいになった。二人の距離は日毎 に近づいていた。
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