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War14:Encounter⑫

 10分程走らせて着いた家は道路沿いだがキレイに手入れされた木々に囲まれ緑も多く落ち着いた雰囲気の8階建てのマンション。  「あ、、ホントに近いんですね」  『そう。こんなに近かったらもしかして今まですれ違ったりしてたかもね』  シートベルトを外して少しそわそわした様子の奏に心配になる千遥。  『ん?大丈夫?もしかして傷痛む??』  「いや、違います大丈夫です」 千遥が家に誘ってくれた嬉しさと思っても見なかった急な展開に頭がついていかない。  車を降りてマンション玄関のオートロック解除ボタンを操作する千遥を後ろからじっと見つめる奏。自動ドアをすり抜けてエレベーターの6階ボタンを押して待機していると奏がボソッと言った。  「思ったよりいいマンションですね。」  『"思ったより"ってどうゆう意味?どんな家想像してたの?』  仕事場とは違うプライベートの部分を見るのが嬉しくてまた頭の千遥ページに記録する奏。  『ごめん。散らかってるけど気にしないで』  「お邪魔します、、」  部屋に入って周りを見渡す奏。間取りは2LDK。仕事場兼リビングとドアを挟んで隣には寝室でダブルサイズのベッドルームがある。足元には資料などの書類が散乱していてマグカップがいくつも出ていた。お世辞にも片付いた部屋とは言えない。 『適当に座ってて。薬道具持ってくるから』  「あー…はい、すいません」   千遥はベッドルームの方へ行く。奏は肩にかけていた鞄をそっと床に置いてソファに座った。ソファの弾力を手で押して確認したり、近くに散ら かった紙を拾ってみたり。 さっきと変わらない距離にいるのにこの空間だけ異国にいるような感覚にソワソワが止まらない。  手に手当ての薬をいくつか持ってリビングに戻ってきた千遥は奏と少しだけ距離を取ってソファーに座った。  『あのさ先に一つ聞きたいんだけど……ご両親の事』  「、、ここまで来て説教はイヤですよ」  『そうじゃなくて心配だから奏くんが』  「……親の事って、、なんですか?」  『だから両親はデビューの事知ってるの?』  言葉に詰まる事それこそが答えだ。まさかとは思ったけど未成年の彼を預かっている以上知っておかなければならない。  『やっぱり、、言ってないんだね。どうして?』  「……言ったって反対されるに決まってるし幻滅されたくないから」  『どうして?アイドルしてたら幻滅されるの?』  「父親は自分と同じ医者になって欲しいと思ってるし俺もそのつもりで勉強してたんです。けど今はその考えはもうなくて……」  『言えばいいんじゃない?正直に。』  「……そんな簡単に言えない」  『日高さんに聞いたけどいつもは家まで車を送らせないのはそのせい?』  「……見られたらバレるかもだし」  『じゃあの日僕が家まで送ったのは?』  「……別に」  『ホントは言って認めて欲しいんじゃない?今やってる事を胸張って見せたいんじゃない?だからあの日、僕を家まで送らせた』  「……それは、、そう…なのかも」  『もし言いにくいならその時は一緒に付き添うから』  奏が小さく頷いて"一緒"の言葉が体中に脈打つようにじわっと広がった。    『さっ、顔みせて。手当てしないと』  奏はゆっくり顔を上げたが目は()らして遠くを見たまま。千遥の顔が近くて見ていられない。黙って薬を顔に塗っていくが薬がしみてピクッと自然に動いてしまう。  『ごめん……我慢してね。しみる?』  「大丈夫です、、」  痛みなんてどうでも良かった。千遥の部屋に2人きりこんな近い距離で肌に触れている千遥の手の温かさだけに全ての神経が集中している。  『だめ。それじゃ見えないよ、こっち向いて』    奏と千遥の瞳と瞳が惹きつけられて磁石のように近づいて離れない。薬を塗る手の力が自然に緩んで完全に動きが止まった。  奏の視線がゆっくりと千遥の唇に落ちる。その目線を追いかける千遥の体は(もろ)くてすぐなくなってしまう泡のように弱く力が抜けていき奏は少しずつ距離を縮めていく。 そう今にも聞こえてしまいそうな心を声押し殺しながら。  "好きになってもいいですか"

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