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War15:Encounter⑬

 彼の栗色のサラサラの髪が(かす)かに触れて白い肌と整った鼻が僕の瞳の中を埋め尽くす。 そんな情欲的な彼の誘惑に逆らえないでただじっと動けないでいた。  "ブーブーブー"スマホのバイブ音でハッと我に返る。千遥は慌ててテーブルに置いたスマホを手にし通話を押した。  『はい!あっ、、日高さん。あー今は奏くんと一緒です。えっと……ちょっと病院に来てて、大した怪我じゃないんですけど。すいません、今終わったので今から会場戻りますね。はい、じゃあとで』  電話を切って奏を見る千遥。  「……日高さんですか?」  『うん。来る時何も言わず出て行ったから、、すごく心配してたよ。とりあえず病院に行ってるって事にして学校での事は秘密にしておこう。あとこの家に来た事も内緒に……ね』  「、、どうしてですか?」  『んー…とりあえずそうして!もう行かなきゃ。リハーサルみんな待ってるよ!その薬は持ってって』  何となくここにいたらダメな気がして。(なか)ば追い出すように言った。もし電話がなかったらどうなってたんだろう。  奏は薬を鞄にいれて立ち上り鞄を肩に掛けると棚に当たってドサドサッという音と共に本やら雑貨が散らばった。"あっ!"と声を漏らして急いでそれらを拾った。 すると落ちた物の中に一枚のCDが目について"なんだろう"と手に取ってみる。CDジャケットには若い男の子5人写真……しばらくそこから動けなかった。 それは少し前からあったモヤモヤが確信に変わった瞬間だった。  『奏くん何してんの?行くよ!』 玄関から千遥の呼ぶ声が聞こえて、奏はCDと本をを棚に戻して玄関に走った。落ちた衝撃で割れたCDケースの小さなカケラが床に散らばっていた。  イベント会場に着くと駐車場で待っていた那奈が二人の乗った車に気付いて手を振った。停車して降りると二人の元に駆け寄る。  「ちょっと奏くん!大丈夫?怪我って何?どうしたの?何があったの?」 状況が飲み込めない怒涛の質問攻撃する那奈に戸惑う奏。  「えっと……」  『あー…奏くん、学校帰りに自転車で派手に転んだみたいで。腫れはひいたし病院で薬もらったのでもう大丈夫と思います。ねっ!』  「あっ……はい。すいませんでした。 」  「そうなの?大した怪我じゃないなら良かったけど、、じゃリハーサルは大丈夫よね?」  そのまま奏と那奈は会場に入っていく。そんな二人の背中を見ながら千遥は"さっきは何も無かった。何も無かったんだ"と何度も自分に|宥《なだ》めた。担当者とアイドル、関係は今までと何も変わってないと。  《奏!!大丈夫か?》 会場に入った奏にメンバーがリハーサルを止めて口を揃えて奏に集まる。  「みんなごめん……」  「顔、、痛そう。どうしたんだよ?」  リーダーの光が言うとみんなも心配そうな顔して奏の顔を覗き込んでいる。  「ちょっとさ、学校帰りに自転車で転んでさ。けどもう平気だしイベントには影響ないから」  「それならいいけど。無理すんなよ」  「うん。じゃすぐ着替えてくる!」  奏は控え室へ走っていった。メンバーはステージに上がってリハーサルの続きに戻る。  「ん?あれ……?奏って自転車通学だっけ?」  「あー、いや電車のはずだけど?」  「でもまぁ、とにかく無事で良かったよ。デビュー前に大怪我なんてシャレにならないしな」  「よしっ!じゃ全員揃ったしリハーサル再開しよう!」  初めてのDeeperZのステージ。熱が入るリハーサルに6人が揃ってイベントの成功だけを考え夜遅くまでひたすら歌って踊った。奏もいつも通りの動きで怪我の心配はなさそうだ。 そしていよいよデビューまであと2日。

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