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War17:DeeperZ Debut!
12月25日クリスマス当日。
子どもの頃サンタクロースが我が家に来る事は一度もなかった。翌日学校に行くと、こぞってサンタクロースが来た!と騒いでるクラスメイトを見て鼻で笑っていた。それからクリスマスが特別な日という感覚はずっとなく生きてきた。
でも今年の12月25日とは今までとは違う。ドキドキとワクワクに満ち溢れている。あと時クラスメイトが味わった感情を今初めて知る事になろうとは。
『んっ……起きなきゃ』
目覚ましを止めていつものルーティンで身支度をする。長い一日中になると予想して普段持たないモバイルバッテリーも鞄に入れた。
あといつもと違うと言えば、なんとなくクリスマスを意識した赤色のコートを羽織って家を出たことかな。誰に見せるわけでもないのだが、何だか今日はワクワクしてるせいもあって、思い付きすぐにクローゼットの奥から引っ張りだした。
電車に乗るとやっぱり今日と言う日に目に付くのはカップル達だろう。目的地到着までの時間、何組のカップルが電車を乗り降りしたか数えたりする事で少し高ぶった気持ちを抑えていた。
DeeperZのデビューイベント会場には開始数時間前から既にたくさんのファンの女の子達で会場の外はごった返していた。この寒い12月下旬でもミニスカートを履いて、ふわふわのファーの付いたコートはまさにこれからクリスマスデートをするかのような女の子達。
「えー!グッズどれ買おうかな〜?」
「私は旬のタオルとうちわ!」
「私はTシャツと朋希の全部!!」
「全部って何!?いくら使うつもり?」
「あ〜楽しみだなー!初めて生で見るDeeperZのライブ♡」
そんな様子はメンバー控え室がある場所からよく見えていた。少し高い位置にある窓から外の様子を見ようと、ソファーの縁に乗って凌太と卓士が窓から顔を出して外を覗く。
「わっ!すごい!もうこんなに人来てる!」
「えっ、ちょっと凌太どいて。俺も見たい!わ〜ここにいる人達全員が俺たちを見にきてるんだよなー!なんか感動!緊張してきたな」
「ちょっと二人とも危ないからやめて。誰かに見られたら困るでしょ」
幼稚園児に叱る先生のように那奈が言うと素直にソファーから降りた二人。緊張するのはスタッフも同じ、むしろこの日は朝から那奈が一番落ち着きなく動き回っていた。
最後のリハーサルも何事なく終え本番までの大事な時間。ヘアメイクをするメンバーもいればダンスを繰り返し踊っているメンバー、大きな口を開けて腹ごしらえするメンバーとそれぞれで過ごしている。
「次、奏くんメイクするから来て」
メイクさんが順番を呼びに来ると控え室を出て一緒に隣のメイクルールへ。メイク台の前に座る奏は鏡見ながら言った。
「あのー…ごめんなさい。数日前に怪我して顔に少し傷があるんですけど……こことか、、ここ。メイクでどうにかなりますかね?」
「そうね、これくらいなら隠せると思うわ。任せて」
「すいません…お願いします」
手際よく奏のメイクを施して顔をステージ上でのアイドルの顔に変えていく。しばらくしてだいぶ完成した顔を真っ直ぐ鏡でチェックしていると、奏の横に千遥が映りこんで二人は鏡越しに目があった。
「あっ、千遥さん……」
『奏くんおはよう!心配で見に来たけど顔の傷だいぶ良くなったね、全然わかんないよ』
さっき会場に到着した千遥は着くとすぐ自然と奏を探していた。那奈に聞いてメイクルームにいると言われやってきた。
「はい。メイクさんがうまく隠してくれましたから大丈夫そうです」
『ホントだ。自然に分からなくしてくれてありがとうございます』
「いえ、奏くんはすごく肌がきれいだし、どんなメイクも似合う顔だからやりやすいですよ。、、はい!終わり!」
メイクさんはそう言って次のメンバーを呼びに隣の部屋へ行った。明るいメイクルームに二人きりなって、小さく流れていた音楽がよりはっきりと聴こえる。そして座ったままの奏の近くにそっと近づいた千遥。
『緊張してる?』
「はい、少し……けどもうあとはやる事やるだけなので!」
『さすがだね。なんか奏くんよりなぜか裏方の僕の方が緊張してるよ』
「千遥さん、今日のイベントちゃんと最後まで見ていて下さいね』
『当たり前じゃん、見るに決まってるでしょ。頑張ってね』
「俺の事見てください、、だってやっと千遥さんと同じステージに立てるんだから」
『えっ、、?どうゆう意……』
ガヤガヤと廊下から話し声がこちらに向かって歩いてくる。椅子から立った彼は僕に一礼して、さっきの言葉の意味を聞き返す余裕もなく部屋から去っていった。
開演時間が近づくにつれ3000人のファンの声も大きくなり、それがメンバー達の気持ちを高ぶらせていま。ステージ袖に集まったDeeparZと戸川が向かいあって気合いを入れていた。
「みんな!いよいよ始まるけど準備は大丈夫かな!?いける!?」
《はいっ!!!》
それをスタッフも全員後ろから見ていた。
撮影スタジオで初めて会った日の挨拶を思い出させるような息の合った返事をした。まだ出会って一ヶ月弱の彼らと、何故かもう出会って何年も経ったような感覚になっていた。今から飛び立とうとする彼らの背中を今僕はどんな風に押せばいいのか、、いや押さずとも彼らは自分達で飛べる立派な羽をもう手にいれている。
そしていよいよステージの幕が開いた。
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