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War20:DeeperZ Debut!④

 遠くから見てバスの明かりが漏れているのがわかるが、はっきり中が見えるほど明かるさに余裕はない。  心がざわつく奏はポケットから手を出し寒さに身を寄せるようにバスまで走った。  開いている扉、そして室内灯が小さく付いているだけ。数段の段差を一気に飛ぶように越えて車内へ入る。エンジンのかかっていないバス車内の気温は外にいるのと同等の殺傷力だ。  運転席から見渡すが誰もいない、前列からシートに手をつき確認ながら進む。なぜか不安と緊張が入り混じった気持ちで進むと、少し頭が見た気がして奏は後方シートへ急いだ。  「……はぁ、、やっぱり」  肩を撫で下ろす奏の目の前には千遥の姿があった。嫌な予感は的中した。この凍える寒さの中、バスの窓側に体を預け眠り込む千遥の手にはスマホが握られている。  奏はしばらくじっと顔を見つめて声をかけた。  「千遥さん、、千遥さん!」  千遥に起きる気配はない、完全に深いところまで寝てしまっているようだ。 奏は着ていたジャケットを脱いで千遥の体にそっとかけた。それでも起きる気配を微塵(みじん)も感じない千遥の隣に隣の席にすっと座った。   「………困った人ですね」  隣で小さな寝息を立ててお酒で少し赤くなった頬。また初めて見る寝姿に何だかまた嬉しくなり、そして愛おしくもなった。  右手がゆっくりと髪の毛に伸びた。撫でるでもなくただ体に触れたい、千遥さんを感じたい。  「失恋の話なんか聞きたくない……いくら昔の話でも嫉妬しちゃいますよ」  そう小さく呟いて手はゆっくり顔のラインをなぞるように下に落ちていく。千遥の冷たい左頬にギュッと手を当てて温めるがそれでも|微動《びどう》だにしない千遥の身体。そこまでお酒に弱いのにこんなになるまで飲んで、、千遥が愛しければ愛しいほどそんな無防備な姿に(あき)れる。  「こんな姿……俺にだけしか見せないで」    そして手は頬から唇へ降りてスーッとなぞる。理性なんていらない、、奏は千遥の唇へ視線を落として近づく。寝息の小さな息づかいが徐々に大きく聴こえて   そして、、キスをした。    触れるだけの唇と唇の温かい柔らかい感触が思考を停止させ疼く身体とまだ物足りなさを感じ少し噛み付くようなキスをした。  "千遥さん……好きです"  心の中では何度もそう繰り返して聞こえていない事にホッとする反面、声に出して言えない伝える勇気のない自分が死ぬほど嫌いでもある。

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