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War24:Show Must Go On③

 『凌太くん、具合どう??』  「はい、もう大丈夫です」  電話が終わって千遥が病室に入ると凌太は寝ているベッドから体を少し持ち上げて言った。  『日高さんに連絡したよ。みんなもこれから帰るって。今日一日はここで休んだ方がいい、倒れた時に頭打ってるし。ご両親にも連絡したからもうすぐ来ると思うからそれまで一緒にいるね』  「大庭さん……本当にすいませんでした。僕の体調気付いてたんですよね?」  『うん。だけど大丈夫って言った』  「……はい。でもそれがダメでした。迷惑かけないつもりが逆に迷惑かけてしまったんですよね」  『そうだね。んー……でも気持ちも分かるよ。この舞台を台無しにしたくない、せっかくのチャンス自分達を多くの人に見てもらいたいって思い』  「はい……」  『今日のステージは最高だったよ!多くの人がDeeperZに釘付けになったはず。凌太くんのおかげでね!』  「僕じゃないです、みんなのおかげです!僕このグループに入れてホントに幸せなんです。子役やってた時は一人で戦ってたから」  『……役者を辞めたのはどうして?』  「小さい時は可愛いってだけで役は貰えてて、自分は特別なんだって子どもながらに感じてたんです。だけど高校生になると、周りに同じ年くらいの役者の子達の凄さに圧倒されて自分が特別じゃないって焦りになって。もう誰にも求められて無いって……要するに逃げたんですよ、自分が(みじ)めになる前に。」  凌太の目には涙が溢れてくる。千遥は凌太の頭に手を置いてポンポンと()でながら顔を近づけた。  『よく頑張ったね。でもまた新しい道を自分で切り開けたじゃん。それはすごい事、大人でもなかなか出来ないんだよ。もう一人じゃない、みんながいて凌太くんが必要としてる』  千遥は泣きじゃくる凌太を抱きしめた。さっきまでステージで大きく見えていた彼を今は小さな子犬のように胸の中に抱きしめてる。 まだ世の中を知らない若者なんかじゃない。酸いも甘いも経験した立派な大人なんだ、、自分なんかよりずっと。  デビューは終わりじゃなく始まりだけど、何かを終わらせるからこそ次への新たな(デビュー)が開ける。 まさに僕の今があるのもあの時代があったから。帰りの車の中で何だか懐かしくも切ない気持ちになった、、そして長い一日が終わった。 ◆◇◆◇◆  翌日インターホンが部屋中に響く。聞こえているが真冬の朝早い来客に千遥は布団を被り完全に無視している。それでも止むことなく鳴り続ける音にさすがに布団から出るしかなかった。  『……もう、、誰!?』 仕方なく起き上がり椅子に掛けていたカーディガンを羽織って、眠い目を(こす)りながら玄関を開けた。目の前に立っていたのは予想もしない来客だった。まだもしかして夢の中なのかと再度目を擦ってみたが状況は同じ、むしろよりハッキリと姿が写る。  『へっ!?奏くん?……どうしたの!?』  「千遥さん、おはようございます!」  『いやっ、おはようって……』 目線を下に落とすと大きなキャリーケースが存在感を放っていた。  「お邪魔しまーす!」 限界までドアを開け千遥の横をすり抜けてキャリーケースを重そうに持ち上げる。靴を乱雑に脱ぐとガラガラとキャリーを引きながら部屋に上がった。  『えっ、ちょっちょっ何?何?』  訳がわからずパニックになる千遥をよそに冷静で落ち着いた様子で奥へどんどん進んで行く。 後ろから追いかけて奏の肩を掴むと振り向いて奏は笑顔で千遥を見て言った。 「家出してきたのでしばらくここでお世話になります!」

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