29 / 53

War29:Under One Roof⑤

 『ただいま……ん?この匂い、、は?』  帰宅し家のドアを開けた瞬間焦げた匂いと玄関まで漂う白い煙。火事を疑いたくなる嫌な予感をしながら奥へ進んだ千遥。  「あっ、千遥さん!ちょっと、これ!」  『何やってんの!?』 フライパンやグリルから煙が出ているのに慌てて火の元を確認し、窓を開けた。窓から入ってくる冷気が煙たさと匂いを奪って次第に消えていった。  『奏くん大丈夫!?』  「大丈夫です。ごめんなさい。千遥さんが帰ってくるまでご飯作ってようと思ってたら……」  『奏くん、、料理した事あるの?』  「えっと、今日が初めてです」  『あぁ……なるほど、、』    今年も明日で終わると言う日に(あや)うく家が燃えるところだったが間一髪助かった。 ただ家に帰って灯りがついて人の気配がするのは悪くはないもんだなとも思ったり。そして料理を作って待っていてくれる人がいることも。だから叱る気なんてさらさらないのに悄気(しょげ)ながら、黒焦げた正体不明の食べ物を見ている姿が何だか愛らしい。  「どうしよう。失敗したから食べるのなくなっちゃった……」  『あぁご飯なら買ってきてるよ、ほら!』 ビニール袋が並んでいるテーブルを指差して言った。  『奏くんもまだ食べてないよね?2人分買ってきたから食べよっか。片付けは後でいいよ』    テーブルに並んだ料理に目を輝かせる奏はとりあえず目の前にあった料理を手に取って食べ始めた。  「わっ、美味しい!このパスタは何ですか?」  『それはアマトリチャーナだよ』  「ア、マト…リチャー…ナ?」  『たまに行く事務所近くのね、イタリア料理のお店でテイクアウトしてきたんだよ。なかなか美味しいでしょ。』  「はい。高校生はあまりこうゆうの食べないですよ!やっぱり大人ですね千遥さんは。アマトリとか食べるんだもんなぁー」  『ね!チャイナだと中国だから』  顔を見合ってクスッと笑い合う。いつぶりだろう、こんなに風に笑いながら家でご飯を食べたのは。それからもたわいもない話であっという間にテーブルから食べ物がすべて消えた。  『そう言えばいい話があるよ!』  「えっ!?何ですか?」  『あのねDeeperZのランキングが2位だったんだよ」  「えっー!ホントですか!?」  『うん良かったね。今日事務所スタッフみんなでお祭り騒ぎだったんだから』  「2位か〜嬉しいです!」    何だろう、、今これを伝えたのは担当者としての報告と言うよりは彼の喜ぶ顔が見たくて口に出た言葉に過ぎないような気がするのは。  「じゃぁ、頑張ったご褒美下さい」  『は!?、、、ご褒美って?』  「んー…じゃ今日一緒に寝て下さい!」  キラキラした目で訴えてくるものだから一瞬許してしまいそうになるのを(こら)えた。  『何言ってんの?冗談言ってないでさ、もう食べ終わったならお風呂行ってきなよ』  「えーまだいいです」  立ち上がってスタスタと部屋からバスタオルを持って戻ってきた千遥。  『はい、バスタオル。シャンプーとか勝手に使っていいから。シャワーだけで大丈夫かな?』  「はい、シャワーだけで」  冗談だと交わされて少し拗ねた口調で答えた奏。多少強引だかこのままだとまた彼のペースになりかねないと何でもなるべく軽く受け流すと決めた。  キャリーケースからスエットを取り出しバスルームに入った奏の姿を確認して一息ついた。 色々思う事はあるがとりあえず考えるのはキッチンを片付けてからにしよう。なぜか落ちつかなくてバタバタ動き出す千遥。なんせ夜はまだまだ長い。

ともだちにシェアしよう!